2桁成長、「アジア医療市場」へ日本企業が熱視線 三井物産やテルモなど出資や提携が相次ぐ

拡大
縮小

三井物産のように、アジアのヘルスケア市場に日本企業が目を向けるのは、その成長性の高さにある。調査会社フロスト&サリバンによると、アジア・太平洋地域のヘルスケア市場規模は2018年時点で5000億米ドルを超える。伸び率も、世界平均が4%台なのに対し、アジア・太平洋地域は12%台だ。

その結果、医療機器メーカーのアジア向け売上高は拡大している。例えば、消化器内視鏡で世界シェア7割のオリンパス。2020年3月期上半期の中国での医療事業売上高は前期比27%増と成長が加速している。同社の竹内康雄社長は「中国で2桁の伸び率が継続するのは確実だ」と期待を寄せる。

血液検査機器大手のシスメックスも「(アジアの)現地通貨ベースでの売り上げは伸びる見込み。中国内陸部の市場拡大余地はまだまだある」(同社関係者)と、中国やインド、東南アジアの追い風を感じている。

日本企業が戦いやすいアジア市場

アジア各国政府の政策変更も、ヘルスケア市場拡大を後押ししている。中国政府は2016年に「健康中国2030」という生活習慣病の予防など、健康分野における初の中長期計画を策定。2030年までに国民の健康水準を引き上げるべく、予防医療の充実を掲げている。オリンパスの竹内社長は「先進国だけでなく、アジアなどの新興国でも予防医学の重要性が認識され、政府が継続的に予算を投じるなど医療費への考えが変わってきている」と指摘。予防医療が進むと、各人が自分の健康状態を把握することが必要となるため、検査機器の需要が増えそうだ。

アジア市場は、「グローバルメジャー」と呼ばれる欧米の大手医療メーカーのプレゼンスが欧米と比べて低く、日本企業も競合しやすい。

オリンパスが開設したタイのトレーニングセンター風景(写真:オリンパス)

カテーテルなど循環器系治療器具を手がけるテルモは、2012年に中国最大手の威高(ウェイガオ)グループと合弁企業を設立。2018年末に現地の医療機器企業を約140億円で買収した。2019年4~9月期の中国の売上高は、前年比24%増となった。

シスメックスは1995年に中国企業との合弁による現地法人を設立。当時は競合のロシュ社などグローバルメジャーは中国市場を重視していなかったため、シスメックスが中国で赤血球や白血球を検査するヘマトロジー分野でリーディングカンパニーとなり、現在まで優位を保つ。

オリンパスも中国やタイに医師向けのトレーニングセンターを開設し、内視鏡を扱える医師を増やして、内視鏡の需要拡大につなげようとしている。

医療需要の拡大でアジア新興国の各現地でも地場メーカーが次々と生まれているが、技術面では欧米や日本勢がリードしている。日本勢が強みをもつ分野だけでなく、欧米の医療大手と対等に競争できるか。日本企業はアジアのヘルスケア市場をうまく取り込めるのか。これからが正念場となる。

劉 彦甫 東洋経済 記者

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りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

解説部記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。台湾台北市生まれの客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説の研究者でもある。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。ピアノや旅行、アニメが好き。

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