PM2.5より恐い?中国から飛来する水銀 琵琶湖で見つかった水銀ナマズ
PM2.5の中身の物質は多様だが、水銀は独自の浮遊物質として、やはり日本の上空に飛来している。永淵教授は07年から、富士山や乗鞍岳(長野・岐阜県境)、伊吹山(滋賀・岐阜県境)、霧島山系の韓国岳(鹿児島・宮崎県境)、屋久島(鹿児島県)などの様々な標高で観測し、その事実を裏付けてきた。
食物連鎖で水銀が濃縮
琵琶湖や全国の山々での調査は、地球規模の水銀汚染の深刻化を食い止めようとする国連環境計画(UNEP)への協力の一環として、環境省の委託を受けて実施しているものだ。UNEPは世界の水銀排出量の3分の1の発生源が、中国だとみている。永淵教授は中国も訪れ、関係学会の協力を得て水銀排出推定量を確かめたり、上海市や蘭州市で針葉樹の水銀濃度を測定したりしてきた。
そこで確認できたのは、日本国内で調査した山の水銀濃度が上昇したときは、例外なく中国からの気団がその山の方面を覆い通った場合ということだ。逆に山の水銀濃度が低い日は、太平洋からの気団の影響下にあるときだった。
例えば12年10月、乗鞍岳一帯が大陸からの寒気団に覆われると、水銀濃度が1立方メートルあたり0.5ナノグラム(ng)から2.5ngに急上昇した。伊吹山では、中国からの気団に包まれると、水銀濃度とともにヒ素やテルルといった物質の濃度も相関的に高くなった。
そこから考えられるのは、日本の大気の水銀の大部分は中国発で、それはおおむね石炭の燃焼によって発生したということだ。石炭には水銀、ヒ素、テルルなどの物質が含まれているが、中国の工場や発電所は、排煙の除去設備の導入が立ち遅れている。
中国から飛来した水銀の一部は酸化されると、雨に溶けて日本の地表や水面に沈着する。琵琶湖には、伊吹山地や周辺の山々から、多くの河川が流れ込んでいる。水銀を取り込むプランクトンを小さな魚が食べ、その魚を中型魚が食べ、それを大型魚が食べ、だんだんと水銀が濃縮されていく。アユやマスを捕食するビワコオオナマズは、琵琶湖の生態系の頂点に位置している。
このオオナマズの水銀濃度は、いま水銀汚染が心配されている海洋の常食魚マグロのそれを超えるくらい高かった。まさに教科書通りの食物連鎖によるものと推察される。
こうした現象は、琵琶湖に限った話ではない。永淵教授は警告する。