アメリカ巨人企業が支配する飲食料業界の展望 生き残りをかけた競争戦略でM&Aも活発に

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ここまでアメリカ企業を紹介してきたが、アメリカ企業以外にも有力プレーヤーが存在する。その代表格がスイスに本社をもつ世界最大の食品・飲料メーカーのネスレだ。2018年12月期の売上高は932億ドル、従業員数30.8万人と圧巻の規模を誇る。コーヒー、チョコレート、アイスクリーム、ボトル入り飲料水、ベビーフード、日用品など幅広いジャンルの事業を展開している。

ネスレが展開するキットカット(写真:ネスレHPより)

有力ブランドとしてコーヒーの「ネスカフェ」、ココア飲料「ミロ」、チョコレートの「キットカット」、炭酸ミネラルウォーターの「ペリエ」、調味料の「マギー」ブイヨンなどを抱えており、日本でも定番のものばかり。直近はペットフード「ピュリナ」が成長しているほか、飲料水の事業再編に着手している。

M&Aを駆使した成長戦略に注目集まる

ミネラルウォーターのブランドといえば「エビアン」「ボルヴィック」も有名だが、この両ブランドを保有しているのがフランスの食品メーカー・ダノンだ。

フランスの食品メーカー・ダノンが展開するボルヴィック。日本でのマーケティング及び販売はキリンビバレッジ(写真:ダノンHPより)

ダノンの名前は、日本ではヨーグルトのブランドとして知られており、同社の事業もヨーグルトなどを中心とする乳製品が全体の56%を占める。ブランドとしては「ダノン」だけではなく、「アクティビア」「オイコス」などを展開している。ちなみに「アクティビア」は日本では「ダノンビオ」として販売されている。また同社はベビー用や医療用の栄養食品にも注力しており、医療用医薬品では欧州トップ、ベビー用では世界2位の地位にある。

英国のせっけん会社とオランダのマーガリン会社が合併し誕生した家庭用品の世界大手企業ユニリーバは、2018年12月期の売上高583億ドル、15万4848人の従業員を擁する大企業だ。直近の売上高構成では食品・飲料は全体の4割(シャンプーなどパーソナルケアが4割、日用品が2割)だが、それでも230億ドルを超える規模に達する。

食品・飲料事業だけをみても、カップスープの「クノール」、紅茶の「リプトン」、アイスクリームの「ブライヤーズ」「ベン&ジェリーズ」など多数のブランドを保有している。収益の過半を新興国で稼ぎ出しているのも同社の特徴で、ローカルブランドのM&Aも推進している。

食品・飲料業界のグローバル大企業の多くは、これまで合従連衡を繰り返し、その過程で有力ブランドを手に入れてきた。消費者に最も近いこの業界では数多くのブランドが存在し、その中には強力なローカルブランドも少なくない。今後も生き残りをかけた競争戦略の有力な手段としてM&Aが活用されることは必至で、こうしたブランドが巨大企業の傘下でグローバルブランドへと拡大していく可能性は高い。

山谷 明良 東洋経済データ事業局

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やまや あきら / Akira Yamaya

2005年、東洋経済新報社入社。編集局で『会社四季報』『週刊東洋経済』の記者、データ事業局で『財務情報』『大株主』『日本の企業グループ』のデータ編集を経て、『米国会社四季報』編集長を務めた。

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加藤 千明 ファイナンシャル・プランナー、「アメリカ企業リサーチラボ」運営

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かとう ちあき / Chiaki Kato

大手証券会社勤務の後、1993年7月、東洋経済新報社に入社。主に統計指標をベースとした刊行物を担当する一方、電機・化学業界担当記者としてITバブルの全盛期と終焉を経験。その後は、マクロ、マーケットおよび地域動向を主戦場に、データをもとにした分析、執筆などを行う。2005年より『東洋経済 統計月報』編集長、2010年より『都市データパック』編集長。『米国会社四季報』編集部を経て、2021年2月に退社。現在はファイナンシャル・プランナーとして活動するかたわら、アメリカ企業の決算情報を中心にSNSで発信。

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