学生たちによる立法院の占拠は1カ月近くに及んだ。もちろん違法行為なのだが、不思議と平和的な運動であって、世論の受けも悪くなかった。学生たちに食料を差し入れる市民がいた一方で、馬英九政権の支持率は1割程度まで急低下した。結局、政府は譲歩を迫られ、学生たちは大手を振って立法院から退去した。そしてサービス貿易協定は、今に至るも発効していない。
ちなみにこの年の秋、台湾の動きに便乗するかのように、香港では「雨傘運動」が始まっている。香港における民主主義の後退に抗議した学生たちが、金融街セントラルを占拠したのである。
こちらは香港政府の厳しい弾圧を受けて、学生たちはほろ苦い思いを抱えて撤退することになる。そして、2019年6月から今日に至る香港デモの導火線となっていく。台湾と香港における政治のシンクロニシティは、実はこの頃から始まっている。
選挙戦はネット空間に「完全移行」
振り返ってみると、台湾が中国に対して優位であった2000年代と、中国が台湾を呑み込もうとし始めた2010年代とは、中台関係の景色はくっきりと変わっている。それでは2020年代の中台関係は、これからどうなるのだろう?
1月11日の台湾総統選挙に合わせて、現地に乗り込んだ筆者の目に飛び込んできたのは、前回(2016年)や前々回(2012年)に比べると、看板もポスターもめっきり少なくなった台北市内であった。「昔の台湾選挙は、もっとお祭り騒ぎだったけどなあ…」とぼやいたところ、現地のジャーナリストに即座に否定された。
「違うんです。選挙戦がネット空間に移行してしまったので、看板におカネをかけても無駄なんです」
台湾の人たちはSNSが大好きだ。何しろLINEの普及率が96%、フェイスブックは79%だという。「LINEに入っていない」と正直に言ったら、さる台湾人女性ジャーナリストは「信じられない!」と叫んで筆者のスマホを取り上げ、そのままアプリをインストールされそうになったくらいである。
各選対陣営がどれほどSNSに力を注いでいるか。今回、再選された蔡英文総統は、いつも中国語と英語と日本語の3カ国語でツイッターを発信している。この日本語が信じられないくらい高度なのである。例えば1月1日、新年のツイートはこんな文面である。
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