工場異変~日本の製造業は大丈夫か~ 安全・品質・モラルが問われる

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 身内である従業員を疑う事態に

過失が招いた事故ばかりではない。

「あれは日本の平均的な工場の話。大きなニュースにならないレベルなら、他にいくらでもある」。そう断言するのは、日本の食品工場に詳しい、フーズデザインの加藤和夫社長だ。

消費者の不信を買った、マルハニチロホールディングス傘下、アクリフーズ社の冷凍食品・農薬混入事件。舞台となった群馬工場は、各持ち場の施錠がなく、自分の担当以外の生産ラインにも容易に行き来できる構造だった。逮捕された阿部利樹容疑者(40)は、契約社員だった自らの待遇に不満を持っていたという。アクリフーズでは12年に賃金制度の変更を決定し、14年度から完全実施する見込み。年功序列から能力給の比重を高めており、現在はその過渡期だった。

総務省の「労働力調査」によると、雇用の流動化を図りたい経営者側の意向を反映し、日本の全雇用者の3割以上は非正規だ。今や日本の工場内には、契約社員やパート、日系外国人をはじめ、種々雑多の人間が働いている。一方で正規との待遇格差は厳然としてあり、大なり小なり、多くの職場でも不満が充満している事態は、想像に難くない。果たして同工場が特異な存在だったと言い切れるかどうか。

相次ぐ閉鎖、工場を切り売りするメーカー

ただでさえ国内の工場をめぐる状況は厳しい。いわゆる六重苦(円高、高い法人税率、電力不足、労働規制、温暖化規制、貿易自由化の遅れ)のうち、円高は修正されたものの、少子高齢化による内需縮小、新興国との価格競争など、まだまだ問題は山積しているからだ。

ソニーの場合、生産子会社ソニーEMCSは、2001年4月の発足時にあった12工場中、7工場を閉鎖した。13年3月に閉めた美濃加茂工場(岐阜県)では、跡地に通販の千趣会進出が決まったが、ソニーで働いていた2700人に対し、新規雇用は300人に過ぎない。この2月には、テレビ事業の分社化、パソコン事業の売却を決断。パソコン生産を担当するEMCSの長野工場は、投資ファンドである日本産業パートナーズへの売却が決まった。

薄型パネルで大型投資を断行した、パナソニックやシャープも、負の遺産の処理に悩まされている。パナソニックでは、プラズマパネルの尼崎工場(兵庫県)に、累計4000億円以上を投資。だが、3棟ある生産拠点の全ては今年度中に休止され、うち1棟は不動産投資会社に売却される方向である。

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