人が社会問題を解決することに意味はあるのか 世界を変えていくかどうかは結局、主観だ

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安部:面白い。問題解決できているという結果よりも、そのプロセスへの没頭が大切だということですね。

「意思なき楽観」が蔓延している

高橋:先ほども話したとおり、社会全体で見ると問題は解決されてきています。ですが、メディアでは悪いことが起こっているということばかりがニュースになり、読まれます。

高橋祥子(たかはし しょうこ)/株式会社ジーンクエスト代表取締役、株式会社ユーグレナ 執行役員。1988年生まれ。京都大学農学部卒業。2013年6月、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程在籍中に、個人向けに疾患リスクや体質などに関する遺伝子情報を伝えるゲノム解析サービスを行う株式会社ジーンクエストを起業。2015年3月に博士課程修了。2018年4月、株式会社ユーグレナの執行役員に就任(写真:リディラバジャーナル)

そんなふうに、「このままいくと危ない」という過剰に悲観的な報道ばかりだと、逆に「意思なき楽観」を抱く人が多くなっていくんじゃないかと思っています。人の主体性を育んでいくためには、将来、問題を解決できるだろうというビジョンを共有していかなければならないはずなのですが。

ある番組の中で、日本の未来について渋谷の若者にインタビューしました、という企画があったんです。回答者は100人ぐらいいたのですが、思ったより楽観的だなと思って。

「なんかよくわかんないけど、いい感じになるんじゃない」という答えが多いんです。「頑張ったらこういう未来にいけるよね」ではなくて。

安部:当事者性がないということですね。では、「意思ある楽観」というのはどうやったらつくれると思いますか。

高橋:「客観的な視点」と、矛盾するようですが「主観的な感情」だと思います。

生命科学の領域について言えば、想定していたのと違う使われ方をしてしまうかもしれないという危機感はありますが、技術的には発展していてチャンスはある。そんなふうに客観視している人はたくさんいるのですが、実際に行動に移している人はあまりいないんです。主観的な強い思いを持っている人が多くないということです。

一方で起業している人は、その両方を持っている人が多い。私も生命科学の研究がとにかく好きで、必ず結果を出せるという超主観的な根拠ない自信があるから今行動しています。

なので、客観的に物事を捉える視点と、自信のような主観的な感情がそろっているときに、「意思ある楽観」が生まれるのかなと思っています。

安部:同感です。僕は「占い」と「勘違い」という言い方をしていて。

主体性を持って楽観的になるためには、1つには外部からの方向づけが必要なんですよね。社会問題でいえば、困ってる人がいて、こうすれば救われるとわかると人は動きやすい。

もう1つは、「もしかしたら俺がこれを解決できちゃうかも」という勘違いです。俺でもできるなら、やっちゃおうかなという人が生まれてくる。そのときは勘違いかもしれないけど、それは行動を起こすうえですごく大事なことです。

その外部からの方向づけという外発的動機づけと、勘違いという内発的動機づけの要素があると、人は「意思ある楽観」を持てるのかなと。

高橋:世界を変えていくかどうかは結局、主観の問題なんですよね。でも教育もそうなのですが、できるだけ主観を抑えるようになっているから、その枷を外していくのは大変だなと思います。

つづく後編では、社会問題を解決する際の合意形成の重要性や二元論を乗り越えていくための方法について語ります。後編はこちらからご覧ください。

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「リディラバジャーナル」編集部

「リディラバジャーナル」は社会問題の現場を訪れるスタディツアーを提供しているリディラバが2018年1月に立ち上げたウェブメディア。社会問題を見続けてきたリディラバの知見をもとに、問題の背景にある社会構造まで踏み込んだ、特集形式で記事を提供する有料メディアです。

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