今回の敦賀訪問では、市役所が企画した、新幹線対策を検討する市民の「コアメンバー」が集まる勉強会の講師を務めた。市の産業企画部、観光部、都市整備部が、初めて合同で、この種の会合を企画したという。
「縦割りを避け、新たな仕組み・つながりで新幹線対策の検討を始めています。このような企画が生まれたこと自体、ある意味で、新幹線効果が既に表れていると感じます」。小川明・都市整備部長は力を込める。3つの部の部長は2人が52歳、もう1人が53歳。人事の偶然というが、アラフィフという若手の部長がそろって開業準備の陣頭指揮を執る状況は、地方の市役所では希有かもしれない。
夜は「ミライエ」と名付けられたイルミネーション・イベントを見学した。北陸新幹線の延伸を視野に2014年度、商工会議所、青年会議所、市民団体などが組織する「『敦賀・鉄道と港』まちづくり実行委員会」がスタートさせたという。
55万個のLED電球が、敦賀港に接した金ヶ崎緑地を彩る。「市民から回収した廃食油を精製、バイオディーゼル燃料を作って発電した電気でともした明かりです」と実行委員会の池田裕太郎会長が教えてくれた。2019年、北陸地方のイルミネーション・ランキングのトップに選ばれ、12月25日まで港を照らした。
まちの未来図どう描く?
敦賀の姿は、筆者が住むまち・青森に、幾重にも重なる。冬季の多雪。シンボルのリンゴ(「人道の港 ムゼウム」のサイトには、「ユダヤ人に配られたリンゴは青森産」という証言がある)。「鉄道と港」がまちをつくってきた来歴。そして空襲で多くの命と街並みが失われた歴史――。加えて、福井県も青森県も、原子力施設に向き合う暮らしを送っている。新幹線開業準備に関する資料には、市の悩みとして、知名度が必ずしも高くないこと、そして「敦賀=原子力発電所」というイメージが強いことが挙げられている。
ミライエの名も、こうした悩みをめぐる試行錯誤から生まれた。まちづくり実行委員会のサイトは「不透明な原子力政策により疲弊した本市の経済状況の中、『未来を明るく照らす希望の光』を放ち、『未来へ』向けて長く続く事業であってほしいとの思いが詰まっています」とネーミングの由来を記す。LEDの光は、原子力産業やエネルギー政策とどう向き合うか、模索する光でもあるようだ。
新たな境界としての地位や新幹線ターミナルの機能、あるいは年間980万人の乗換客は、敦賀に何をもたらすのか。地元は隣県・滋賀の米原を参考に思案する。交通と歴史、文化の曲がり角で、どう未来図を描くか。開業までの3年間が、1つの試金石となる。
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