史上最悪だった「日韓関係」で次に起こること 安倍首相、文大統領とも関係改善には慎重か

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日本を批判してきた韓国の学者でさえ、文政権が取るこの曖昧な立場に疑念を示している。韓国政府は、公式のルートを通じて、条約を尊重することを明確に伝えるべきであると、東北アジア歴史財団の元理事長である鄭在貞教授は最近のインタビューで語っている。

鄭教授は「そうすることで、現在の争いをどう解決するかについての交渉が容易になる」としている。「国家としての私たちは、国家間の争いに感情的に取り組む段階はもう過ぎていると思う。争いには、専門的な判断と知識によって対処するべきだ」。

アメリカが「抜けていく」意味

日韓関係の改善の見通しは、東北アジアのより広範囲な戦略地政学的環境の影響を受けるだろうことには疑問の余地はない。例えば両国と北朝鮮との緊張が再び高まれば、日本と韓国が協力関係を強めることは避けられない(ただし、これが両国の根本的な問題解決につながることはない)。

アメリカの政府関係者は、アメリカと同盟関係にある日本と韓国に対し、共通の安全保障上のメリットを享受できるようつねに促してきた。その圧力は少なくとも、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の放棄を撤回した韓国の決定において一定の結果をもたらした。だが、両国で盛り上がるナショナリズムは、こうした流れを覆してしまう力を持っている。

アメリカが、従来の北東アジアの安全保障を主導する立場から事実上退きつつあることで、日本と韓国は長年の緊張関係を双方でコントロールしなければならなくなっている。アメリカの撤退はまた、中国での3カ国首脳会議が示したように、中国がこの文脈において指導的役割を得るチャンスも与えている。

「これは、日韓両国が、第2次世界大戦の終結以来長い間安定した環境を維持してきた東アジアの秩序の維持と発展のために両国の能力を模索する新たな試みだ」と、前出の日本人外交ジャーナリストは語る。

「その意味で、日中韓の3カ国間対話の枠組みは、これから未来においてますます大きな意味を持っていくはずだ。この関係からどのような化学反応が生まれようとも、日本とアメリカの関係は盤石だろう。ただし、韓国の立場がどうなるかはわからない」

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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