「コード・ブルー」作り手が語る医療ドラマの裏 新ドラマ「トップナイフ」が追求するリアル

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:脳について解明されればされるほど、人間の不確かさに気づかされるのがまた面白くて。普段から怒りっぽかった人が、脳腫瘍を切除したら穏やかに変わったりする。僕たちが人の性格だと思っているものは、脳の働きや神経の信号によってあらわれているもので、ごく単純なきっかけで様変わりするものなんだなと。

不確かさは怖くなく、むしろ魅力的だ

新村:そこに立ち会っているのが脳外科医なんですよね。あるいは精神科医もそうかもしれない。脳腫瘍や血管の治療など、いわば「目に見える病気」を治す技術はどんどん進んでいますが、「目に見えない病気」はまだまだ曖昧なところがある領域です。小説に書かれているとおり、記憶がまさにそうですね。息子が母親のことを「宇宙人」だと言い始める。

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一瞬でメロディを覚えてしまうが、本人はそのことに気づいていない。自分を死んだ人間のように錯覚して生きている。そういった症例を通して、林さんは人間そのものを思索されたんですね。

:それに医学的な肉づけをしてくれたのが新村さんです。僕ね、脳の本を読むうちに、オバケが怖くなくなったんですよ。オバケはいるとかいないじゃなくて、光の刺激によって脳が僕に見せているものだからって。真っ暗闇で刺激のほとんどない所に行くと簡単に見えるらしいし、幻影を見出すってそれくらいのことなのかもなって。そう思うと、不確かだっていうのは怖いことじゃなくて、魅力的なことだなと思えてきて。

新村:病気を描くことで、人間の不確かさを受け入れていく。おたがいに立場は違うけれど、僕と林さんはそんな共同作業をしているのかもしれないですね。

(構成:五所 純子)

林 宏司 脚本家

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はやし こうじ / Koji Hayashi

関西学院大学卒。出版社勤務を経て、2000年「涙をふいて」で脚本家デビュー。 「医龍 Team Medical Dragon-」「GM~踊れドクター」「コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-」など人気シリーズとなった医療もののテレビドラマのほか、「離婚弁護士」「BOSS」「ハゲタカ」 「アイムホーム」「ヘッドハンター」など数々の大ヒットドラマを手がける。

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新村 核 外科医

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にいむら かく / Kaku Niimura

医学博士。東北大学医学部卒。脳神経外科学会専門医・指導医、脳卒中学会専門医・指導医、脳卒中の外科学会技術指導医。アンチエイジング学会専門医。認知症予防学会専門医。「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」(全シーズン)、「コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-」(全シーズン)、「検事・朝日奈耀子」など医療監修多数。

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