ここで入手可能なデータからデパスの売上高推移を示す。一般に製薬業界では特許が失効した新薬では、より安価な同一成分のジェネリック医薬品が登場し、以後は新薬は通称「長期収載品」と呼ばれ、ジェネリック医薬品によって市場が侵食される。
デパスの場合、早くも1990年代にはジェネリック医薬品が登場している。しかし、2005年度までは一貫して右肩上がりで売上高が伸長している。日本の場合、国が定める医療用医薬品の公定薬価は市場実勢価格を調査したうえで、2年に1回引き下げられるため、売上高が右肩上がりになるということは単純な数字の伸び以上に使用数量が相当伸びていることを意味する。
ちなみにジェネリック医薬品登場以後もデパスの売上高が伸びているのは、日本では従来、医師はジェネリック医薬品の品質に対する懸念が強く、新薬の特許失効後もジェネリック医薬品ではなく、長期収載品(新薬)が使われることが多かったためだと考えられている。
2000年代半ば以降、ジェネリック医薬品が急伸
しかし、2000年代半ば以降、この状況にも変化が生じ始めた。高齢化進展による医療費増大が国全体の財政を圧迫する懸念が急速に高まり、国が安価なジェネリック医薬品の使用推進策を次々に打つようになった。
その代表格が医療従事者の公定技術料である「診療報酬」の2008年4月改定時に導入された「後発医薬品調剤体制加算」である。これは患者から処方箋を受け取って薬を調剤する保険調剤薬局で、ジェネリック医薬品がある新薬では医師から変更不可の指示がない限り、薬局側の判断でジェネリック医薬品への変更を可能とし、このジェネリック医薬品の処方数量割合に応じて薬局側の調剤料に加算がつく仕組みだ。
つまりジェネリック医薬品に切り替えて処方するほど薬局の収入が増えることになる。
ある時期から処方箋を持って保険調剤薬局に行くと、薬剤師から「より安いジェネリック医薬品に変えてもいいですか?」と尋ねられた経験がある人もいるだろう。それはこの政策ゆえだ。この結果、2010年代半ば以降に特許が失効した高血圧などの生活習慣病関連治療薬では、特許失効直後の半年間でジェネリック医薬品が長期収載品(新薬)の市場の約4割も奪うという状況もあった。