自分の「スケジュールを隠す人」が大成しない訳 1300年前の「オープンな組織」に学ぶ
王珪は、諫議大夫ですから、皇帝を諫め、忠告するのが務めです。とはいっても、君主の欲望に関して直言するのは、はばかられ、切り出しにくかったはずです。
「横に美人を置いてはいけません。帰しなさい」と忠告しただけでは、太宗は腹を立てるかもしれません。そこで王珪は、太宗の逆鱗に触れないように、3段構えで話を進めています。
王珪のこの直言のしかたは、「諫め方の教科書」ともいえる好例だと思います。
言いにくい指摘は「3段構え」で伝える
・第1段階/事実で諫める
廬江王が他人の妻を奪ったのは非道である、ということを前提にしながら、あえて「廬江王が他人の妻を奪ったのを正しいとお考えですか? それとも間違っているとお考えですか?」と太宗に問いただしています。太宗は当然、「非道に決まっている」と答えます。
・第2段階/故事を引用する
太宗も王珪も『管子』を読んでいるので、斉の桓公の話を引き合いに出すと、テクスト相関性が高くなり、わかりやすくなります。王珪は、「郭が滅んだのは、善を善としたけれど、それを用いることができず、悪を悪としたけれど、それを取り除くことができなかったからですよね」と太宗に問いかけ、太宗から、「そのとおりだ」という答えを引き出しています。
・第3段階/共通点を示し、同意を求める
「廬江王がやったことは、悪いことでしたよね」「郭が滅んだのは、悪いことだとわかっていながら、取り除くことをしなかったからですよね」と同意を求めたあとで、最後に「陛下も同じことをしていませんか?」と問いかけ、太宗に気づきを与えています。
実は、最初に「そんなわかりきったことをいうな。廬江王は悪人に決まっているではないか」と太宗にいわせた時点で、王珪の勝ちは決まっていたと思います。
けれど王珪は、すぐに結論に持っていかず、故事を絡ませながら、ロジカルに理非曲直を論じたのです。
直言を受け入れた太宗も、立派です。太宗は、王珪の直言に対し、非常に喜び、王珪のいうことはもっともだと称賛しました。そして、すみやかにその女性を親族のもとへ帰らせたのです。
この章の最後は、「遽【にわか】に美人をして其の親族に還さしむ」という一文でまとめられています。僕は「遽に(すみやかに、急いで)」という一語の中に、太宗の名君としての資質を感じます。
凡人であったなら、「わかった。彼女は帰すけれど、もうしばらくそばにおきたい」などと自分を甘やかし、未練を残して、すぐには手放せなかったでしょう。けれど太宗は、「今すぐに帰さないと、また情が移って、そばに置いてしまう」という自分の弱さを自覚していました。だからこそ、そうならないように、「遽に」行動に移したのだと思います。
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