「深緑のiPhone」を実現したある日本企業の正体 ティム・クックが埼玉の工場を訪れたワケ

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アップルは2018年に同社の世界中のビジネスを100%再生可能エネルギーでまかなうコミットメントを達成した。アメリカや中国と違い、国土の狭い日本では簡単に再生可能エネルギーの発電所を新設するわけにはいかない。そこでビルの屋上を間借りしてソーラーパネルを設置するといった工夫によって、日本でのビジネスは再生可能エネルギーへの転換にこぎ着けた。

しかし「それでは十分ではない」とクック氏は続ける。アップル製品を製造する工場、パーツを提供するサプライヤー、そして製品を充電する際、ユーザーであるわれわれが使う電力にまでフットプリントを取り、これらも再生可能エネルギーに転換することを目指している。

そこでアップル自身がサプライヤーのエネルギー転換をサポートするファンドを作っており、セイコーアドバンスもこのファンドを利用し、再生可能エネルギーへの転換を図ることになった。

「私は気候のためにとても重要だと思います。われわれはサプライヤーチェーンを通してすべての電力を転換することを啓蒙していく必要があるのです。そして、今回この工場に来て、どのように彼らが再生可能エネルギーへの転換を果たしていくのかを聞けてよかった」(クック氏)

セイコーアドバンスが実現した深緑のiPhone

ティム・クック氏は、2019年モデルの新色となるミッドナイトグリーンのiPhone 11 Proをつねにポケットに入れている。しかし自身が画面の見過ぎであることを告白しているせいか、3日間のクック氏を取材しているなかで、筆者は彼がiPhoneを手にする場面を見ることはなかった。

iPhone 11 Pro Max ミッドナイトグリーン。iPhone 11 Proシリーズのカラーリングは、セイコーアドバンスが担当しており、深いコラボレーションによって実現したことをクック氏は明かした(筆者撮影)

しかし唯一、iPhoneを手にした場面を目にした。それは、セイコーアドバンスの工場を見学しているときに、巨大な塗料のバケツを見つけたときだった。そのバケツの中では、iPhone 11 Pro、iPhone 11 Pro Max向けのミッドナイトグリーンのための塗料が攪拌されていたのである。その膨大な量のインクと自分のiPhoneを見比べて、あらためてガラスへのインクの印刷技術の高さを実感していたようだった。

「ミッドナイトグリーンは、高い品質とクラフトマンシップによってのみ、実現できた色です。そして、だからこそ、彼らと一緒にものづくりに取り組むことは、これ以上ないほどワクワクするのです。

われわれは、ものづくりに取り組む際、コラボレーションの原則を非常に重視します。そして優れた人々が一緒になるとき、お互いの会社の違いを忘れて、ただただ本当に優れた製品を作ることに集中して取り組んでいます。

まさにこの工場で起きたことであり、あなたも私もとても気に入り、選ぶだけの品質を可能にしている理由でもあります」(クック氏)

(※筆者は取材中、ミッドナイトグリーンのiPhone 11 Pro Maxで写真を撮ったり、コメントを録音したりしていたため、クック氏がそうコメントした)

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