北朝鮮、突然の「重大な実験」が意味すること 見えないアメリカとの交渉の行方

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アメリカと韓国の国際政治評論家の中には、北朝鮮が大規模な措置を要求してきたにもかかわらず、アメリカが制裁を緩和する前にこれを拒否したことを非難し、金委員長の声明に賛同する人もいる。しかし、スティーブン・ビーガン特別大使が率いるアメリカの交渉担当者たちは、実際は制裁を緩和するための新しいアイデアや段階的なアプローチを提示したと主張している。

代わりに北朝鮮には真剣に交渉するつもりがなかった証拠がある。ビーガン特別代表とそのチームと緊密に連絡を取っていたアメリカの元諜報部員2人によると、北朝鮮代表団は、すでに声明の全文を手にして会談に臨んでいた。

また、北朝鮮は会談が1日で終わると主張したようで、どちらも北朝鮮が首脳会談で話し合う可能性のある合意内容に、本気で取り組むつもりがなかったことを示す証拠と見られている。これまで指導部との協議、さらには平壌で行われた協議まで、重要な話し合いには、2日はかかっていた。

12月最後の10日間に「党大会」を開催

トランプ大統領との3度目の首脳会談が開かれる可能性もわずかながら残っている。北朝鮮は依然としてトランプ大統領を個人的に攻撃しないように注意を払っており、トランプ大統領の平壌訪問を求めていると言われている。それは金委員長にとって魅力的な見通しだが、トランプ大統領がそうした政治的リスクを進んで取るような兆候はない。

とはいえ、北朝鮮はトランプ大統領の訪朝を諦めていると見たほうがいいだろう。朝鮮労働党中央委員会の政治局常務委員会 (指導部内部の核) が先週、12月最後の10日間に党大会を開くという異例の発表は、その姿勢を表している。発表によると、大会は「変化する内外情勢の要求に応じた重要問題の討議および決定」を行う予定で、これはすでにアメリカが「敵対政策を撤回する」ことはない、と北朝鮮が結論づけたことを示唆している。

この発表にはプロパガンダの写真や映像が付いており、そこには金委員長が白馬に乗って夫人や党の幹部、軍の主要指揮官らを連れて、政権誕生の象徴である聖地・白頭山を訪れる様子が映っていた。

この訪問は過去2カ月で2度目。これに先駆けて中国との国境近くにある観光施設を視察し、中国からの観光客を呼び込もうとした。現在、重要な中国の支援を受けて強化された軍事政権を強調することで、体制の維持、つまり自立への道を進んでいる、というわけだ。

12月初旬、ある元上級情報機関の専門家は、7日の実験を予測して私にこう言っていた。

「今月末の大会の予定を発表したこと、金委員長が最近白頭山に姿を現したという異例の長々とした報道から、何を準備しているのかがわかるまでそう長くはかからないだろう。金委員長の設定した締め切りまで、あと3週間あり、アメリカ政府が行動する余地はある。しかし、大会の予定を組んだ時点で、すでに金委員長の心は決まっており、待つ意思がないことを示している」

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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