むしろ気になるのは、大統領に挑戦状を叩きつけた民主党側だ。弾劾制度とは、アメリカ政治においては非常に重い制度である。成立すれば、現役の大統領を罷免することができる。ただし弾劾が成立したことは過去に一度もない。今から21年前、ビル・クリントン大統領が「モニカ・ルインスキー事件」で弾劾訴追を受けた時は、「議会共和党はやり過ぎだ」と国民の顰蹙を買い、中間選挙ではかえって議席を減らしている。議会にとっては「伝家の宝刀」。とはいえ、抜けばタダでは済まない仕組みなのだ。
トランプ大統領は弾劾に値するのか?
その昔、王様を嫌って欧州から新大陸に渡った人々は、自分たちが再び「王様」を作ってしまうことを極度に恐れた。そこで「建国の父」と呼ばれる人たちは、立法・行政・司法という三権分立のシステムを考案し、相互にチェック機能を持たせた。
すなわち司法制度の外側に「弾劾」という制度を作り、議会が行政府を監視できるようにした。大統領に罪があるとみなされた場合は下院が弾劾訴追を行い、上院が弾劾裁判を行う。その際には、最高裁長官が裁判長となる。選ばれた下院議員が検察役となり、被告となる大統領には弁護人が付く。100人の上院議員が陪審員となり、最後は一人ずつ「有罪」「無罪」を宣言する。3分の2以上の同意により、大統領は罷免されることになる。
さて、ドナルド・トランプ氏は弾劾に値するのだろうか。
7月に行われた電話会談で、トランプ大統領はウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に対し、ジョー・バイデン元副大統領の次男、ハンター・バイデン氏に関する汚職問題の捜査を直接、要求した。さもなくば軍事援助を差し止めるという脅しも使った。言うまでもなく、バイデン氏は来年の大統領選におけるフロントランナーである。外交を利用して私的な政治目的を追求しているわけで、これはどう見たって大統領職権の乱用である。
この問題に対し、11月に下院が公聴会を何度も実施したところ、対ウクライナ外交に関与した外交官、安全保障や情報の専門家などから多くの証言が得られた。彼らは国益をわきまえないボスに辟易していて、証言の信憑性は高そうである。
しかもこの間、トランプ大統領は証人になったヨヴァノヴィッチ前ウクライナ大使を脅すようなツィートを連発している。これも立派な「証人脅迫罪」を構成し得る。これではまるで、「弾劾してください」と言っているようなものである。
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