ところがこのウクライナ疑惑において、具体的にどんな悪事が行われたかと考えてみると、それほどの実害はないのである。ウクライナ政府は本当にバイデン親子の捜査をしたわけではないし、軍事援助が差し止めになったわけでもない。トランプさんはあいかわらず無茶な私的外交を展開しているだけである。コアなトランプ支持者は、「世の中にはもっと悪いことをしている奴がいるじゃないか!」と考えることだろう。
こうしてみると、「大統領弾劾」はトランプさんにむしろ追い風を送っているようなものである。というより、最初からそれが狙いの「プロレス」なのではないか。民主党はまんまと罠に嵌められているのではないかと思えて仕方がない。
年明けからの上院弾劾裁判の行方は?
それでは、これから先のアメリカ政局はどのように展開するのか。現在、12月20日が暫定予算の期限となっていて、これが切れるとアメリカは昨年同様の政府閉鎖となってしまう。それはさすがに拙いので、おそらくこの日に議会は暫定予算の再延長を決める。その上で、同日に下院が弾劾訴追を審議する。民主党が過半数の議席を有しているので、成立はほぼ間違いない。そして翌日からはクリスマス休会ということになるだろう。
年明け、1月初旬には場面を上院に移し、弾劾裁判が始まるだろう。アンドリュー・ジョンソン第17代大統領、ビル・クリントン第42代大統領に続き、アメリカの歴史において3度目の事態である(リチャード・ニクソン第37代大統領は弾劾訴追の直前に辞任)。
この状況は、約21年前のクリントン弾劾の時とほぼ同じ政治日程となっている。あのときは1998年12月19日に下院が弾劾訴追し、1999年1月7日に上院で弾劾裁判が始まっている。最初に下院議員による冒頭陳述と証拠提出、次に大統領代理人による反対弁論、さらに上院議員による質問などがあって、ようやく最終弁論にたどりつく。
結審は5週間後の2月12日であった。2つの罪状のうち、①偽証罪については45対55、②司法妨害では50対50となり、いずれも3分の2には届かずクリントン大統領は無罪となっている。
おそらくトランプ大統領も同じコースをたどる。上院議員100人のうち53人は共和党であり、20人以上が造反しないと弾劾は成立しない。しかも共和党員のトランプ支持率は9割を超えている。民主党は勝てない喧嘩を始めてしまったのではないだろうか。
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