酒が飲めない人には理解しがたい酒飲みの発想 乗り越えるべき人生の問題が詰まっている

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武田:なるほど、昔だったら5だった距離が、気づいたら10くらいに広がっていて、その差を埋めようとしている、と。でも、お酒を信じる人って10から5じゃなく、急に3までいこうとする人が多くないですか。

町田 康(まちだ・こう)/作家。1962年大阪府生まれ。町田町蔵の名で歌手活動を始め、1981年パンクバンド「INU」の『メシ喰うな!』でレコードデビュー。俳優としても活躍する。1996年、初の小説「くっすん大黒」を発表、同作は翌1997年Bunkamuraドゥマゴ文学賞・野間文芸新人賞を受賞した。以降、2000年「きれぎれ」で芥川賞、2001年詩集『土間の四十八滝』で萩原朔太郎賞、2002年「権現の踊り子」で川端康成文学賞、2005年『告白』で谷崎潤一郎賞、2008年『宿屋めぐり』で野間文芸賞を受賞。著書多数(撮影:塚本 弦汰)

町田:それが酒の面白いところで、5で止まればいいのに、さらに進んで3、2、1までいっちゃうんですよ。

武田:こっちが頑張って5まで持っていこうとしても、相手が3にいっちゃうとまた2のズレが生じてしまう。2人ですらそうなんだから、4〜5人いたら、「おい、これ、そもそも、どの数値を目指せばいいの!?」と困惑します。

町田:酒飲みはね、そんなこと考えてないんですよ。むしろ10からだんだん近づいていくのが楽しかったりもするんですよね。みんなで、〽富士の〜たっかねに降る雪も〜、(中略)溶けて流れりゃみーなー、おーなーじ、なんてね。

武田:なるほど、それは困惑しますね。会社員時代、「俺の酒が飲めないのか」と言われたことが2度ほどあって、こんなことを言う人が本当にいるんだ、という驚きと恨みは、いまだに頭の中に保存しております。

町田:そうなるともう5とか3とかではなく1の距離ですね。いやゼロかな。

酒飲みは、酒の力で自分を乗り越えたいと思う

町田:酒を飲む人の心理を、酒を飲まない武田さんに、酒をやめた僕が説明してみるとね(笑)、人間には「自分を乗り越えたい」という気持ちがあると思うんです。酒を飲んで陶然とする、その感じによって、我慢できない日常を乗り越えられたような気持ちになるからじゃないかと。

『しらふで生きる 大酒飲みの決断』(幻冬舎)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

シャイな人が人前でパフォーマンスしなきゃならないとする。そのときに一杯飲むことで萎縮や緊張から解放されて、しらふだったらできないことができるようになる。対人的な話とは別に、抑制やタガを外したいという気持ちがあるわけですね。武田さんは、自動車は運転されますか?

武田:しないです。

町田:何にもしないですね!?

武田:はい。タバコも吸いません。

町田:そうですか。まぁタクシーでも、車に乗っていると渋滞ってあるじゃないですか。観察していると、かなり多くの人が渋滞を抜けた後にすごいスピードで走り出すんです。時速5キロで走らされた分を取り戻そうとする。酒を飲むのもそんなことで、タガがはめられた状態があって、時々それが外れる。外れた状態にしたくて酒を飲むわけです。

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