酒が飲めない人には理解しがたい酒飲みの発想

乗り越えるべき人生の問題が詰まっている

武田:理論上は、渋滞を平時の状態だと考えれば、ストレスじゃなくなりますね。

武田 砂鉄(たけだ・さてつ)/フリーライター。1982年、東京都生まれ。大学卒業後、出版社で主に時事問題・ノンフィクション本の編集に携わり、2014年からフリーに。『cakes』『文學界』『VERY』『暮しの手帖』などで連載を持つ。2015年、『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。他の著書に『芸能人寛容論』『コンプレックス文化論』『日本の気配』などがある。ウェブサイトはhttp://www.t-satetsu.com/(撮影:塚本 弦汰)

町田:それはまったくもって正しいです。道路を時速40キロで走る権利が渋滞によって5キロまで減らされた。だから俺には35キロを取り戻す権利がある、と言うけど、そもそも誰にいつ権利を与えられたのか? もっと言えば、自分だって混雑の原因の1つなんですよ。

だからまず、通貨を切り下げるように自己認識を切り下げてみる。全体的に縮小させたほうが自我は楽だよと思っています。

武田:認識を変える、というのは、この本でもいちばん重要なところですね。

しらふの状態で生きている意味を考えたくなった

武田:世の中にはいろんな人がいて、さまざまなストレスを与え合うわけですが、こちら側が常にしらふ的な状態でいれば、ちょっとした小石をひょいと乗り越えられる、つまり、タガを外さずに済むんじゃないか。というのも、自分がしらふで生きる理由の1つです。

『往復書簡 無目的な思索の応答』(又吉直樹著、武田砂鉄著、朝日出版社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

町田:飲まないで済むなら、最初からそうやって生きていけるならそれに越したことはないと思います。さらにいちばんいいと思うのは、そしていちばん難しいのは、適度に酒を飲むこと。でもどうしてもエスカレートしてしまうんですよね。

武田:飲みすぎちゃう、というのはどういう心理なんでしょうか。

町田:飲んでふわ〜となったら、その酔いがなくなるというのが嫌なんです。

武田:しらふに戻るのが嫌なんですか?

町田:そうそう。酔いがさめてくると、飲む前のタガがはまった状態よりももっと落ちそうになるんです。だから酔いをうまいこと維持できたらいいんですけど、酒飲んでると自分が酔うてるか酔うてないかの判断がだんだん狂ってくる。だから「あーもう酔うた」って言ってる人は実は酔うてなくて、「まだ酔うてない」と言う人はだいぶ酔うてる。困ったもんなんですよ。

武田:初歩的な質問かもしれませんが、たくさん飲んでいても、他者との位置関係というのは把握できるものなんですか?

町田:いや、できません。まぁただ僕は、対人的な位置関係というよりは、自分が乗り越える人生の問題として酒を考えていた。向き合っていくべき人間の弱さ、その指標が、僕の場合は酒だったわけですけど。酒を飲んで、自分の外にある力を頼みに自分を盛り上げるんじゃなくて、もうちょっとしらふの、素の状態で、どう生きるかという問題を考えてみたかったんです。

(構成:鳥澤光、後編に続く)

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