森田芳光・映画監督--映画の出来を決めるのは原作よりもチーム力だ
--映画を作っていると、「あっ、これはいい映画になる」とか、そういう直観が働くのですか。
それはどうですかね。いい映画になるとか、これは駄目な映画になるとか思ったことは、僕は一度もない。制作中はベストを尽くすことしか考えていないですから。
ただ、運というのはある。今回の『わたし出すわ』みたいに、おカネに関してみんながこんな興味を持ってくれる時代になるとは思わなかった。おカネに関心が持たれない時代だってありますから。
投じたおカネの使われ方 その結末を描きたかった
--『わたし出すわ』の構想を始めたのはリーマンショックの前だったのですか?
もちろんそうです。
--現在の経済情勢を予見していたかのような内容ですが。
経済情勢はあまり関係なくて、僕はこの映画で人の生き方を描くことを考えていた。たとえば、僕は株取引の経験もありますが、インターネット取引では現金が見えません。10万円といってもそれは100000という数字の羅列で、ゲーム感覚です。リーマンショックにしても、絶対原価割れしない、絶対利ザヤが稼げると吹聴され、結局みんなが破綻しましたよね。多額の現金を手にした人が、何に使って、その結末はどうなるかということを描きたかった。だから、リーマンショックがあろうとなかろうと、映画の本質には関係ないんです。
ただ数字に関するセリフはリーマンショックの後に変更しましたよ。「日経平均7000円」とかにね。
--今後の経済見通しについてどうお考えですか。
僕は経済評論家ではないから(笑)。でも今回のようなショックがありながらも、マネーゲームは続きますよ。今はFXがはやっていますが、また株に戻ることもあると思います。
ただ、僕が言いたいのは、株価が上がるとか下がるとかで売買するのではなくて、会社の製品や社長の性格を見て株を買ってもらいたいということ。社長さんの顔がすてきとか、その程度の理由でもいい。そうしないと、ただのギャンブルになってしまう。経済というのは、応援するオーラがないと成り立たない。儲かる、儲からないという考えだけではおカネが死んでしまうんです。
今までは実体のないマネーゲームでした。今後は感情移入ができるマネーゲームになってくれるとありがたいし、この映画がそのヒントになってくれると本当にうれしい。