「考える」を買う。高橋理子株式会社 あえて不親切な商品が壊す「モノ」の固定観念とは

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 「考えるを買う」は「お客様第一」のアンチテーゼ

お客様第一。

これは「売り手」側の言葉として当然のように語られる言葉です。しかし、ここでいう、「お客様第一」とはいったい何でしょうか? 

実は、「お客様第一」という言葉には、落とし穴があると私は考えています。多くは、「お客様第一」とは、お客様が商品やサービスを不自由なく使えて、すぐに満足していただくことを意味しています。徹底して使いやすいとか、説明をするとか、とにかくお客様が不自由なく使えるのかどうかというのが大事なわけです。

その点では今回、ご紹介したようなお客様に考えてもらうプロダクトは、「お客様第一」とは逆の思考で、不親切なプロダクトといえるかもしれません。しかし、見方を変えれば、“短期的な”「お客様第一」を徹底することにより、消費者が考える余地を失ってしまったことに対するアンチテーゼであるとも言えます。安易なわかりやすさに流れることで、モノを買う、モノを使う、モノについて考える力を「使い手」から奪ってしまっている可能性があるとすると、あえて不親切なこの商品は、新しい価値を持っていると考えられないでしょうか?

そもそも、非連続のイノベーションというのは、「お客様第一」に立脚したわかりやすさからは生まれにくいものだと考えています。どうしても、マーケットイン(市場からのニーズを基にモノづくりを進める商品の作り方)ですと、今ある商品や文化をベースにモノづくりが行われるため、その延長線上、どうしても商品は新しいものではなく、「改良」によってしまいがちです。そして、そのほうがお客様にとっても価値がわかりやすく、理解も得られやすいので、お客様のことを考えて作ったように見えやすいのだと思います。

「考えてもらう」商品とは、十二分に考えて作る必要があります。固定観念を壊す商品であるということは、私たちが常識にとらわれていて、見えていない本質に迫るということです。言葉を変えれば、今、社会に必要だけど、なぜかない商品であるということなのです。

社会にない商品やデザインを作るのは、それだけリスクも伴うでしょう。しかし、そういった商品が出てこなければ、私たち「買い手」のモノを見る目も成長しません。私たちが、「買い手」としてモノを使う、モノを見る目を養い、それを伝えていくことで、さらにデザイナーがそれを上回る「考える商品」を作る。

「売り手」も「買い手」も、考え合って、モノの価値を高めていく。そんな関係性が今、求められているのではないでしょうか?

山崎 大祐 マザーハウス 副社長

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やまざき だいすけ / Daisuke Yamazaki

1980年東京生まれ。高校時代は物理学者を目指していたが、幼少期の記者への夢を捨てられず、1999年、慶応義塾大学総合政策学部に進学。大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持ち始める。2003年、大学卒業後、 ゴールドマン・サックス証券に入社。エコノミストとして、日本及びアジア経済の分析・調査・研究や各投資家への金融商品の提案を行う。2007年3月、同社を退社。株式会社マザーハウスの経営への参画を決意し、同年7月に副社長に就任。副社長として、マーケティング・生産の両サイドを管理。1年の半分は途上国を中心に海外を飛び回っている。

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