ネットがあれば新聞不要と思う人に欠けた視点 「新聞離れ」が進んだアメリカはどうなったか
1970年代、アメリカ史上最大の政治スキャンダル「ウォーターゲート事件」によって、当時のリチャード・ニクソン大統領が辞任に追い込まれました。この事件を暴いたのはワシントン・ポストで地方版を担当する、2人の若手記者でした。
発端は1972年、ワシントンのウォーターゲートビルにある民主党本部に不法侵入した人物をガードマンが見つけて通報。現行犯で逮捕されたという警察発表でした。逮捕された侵入者の中には元CIA(中央情報局)の工作員がいました。
これを知った2人の記者は「本当にただのコソ泥なのか?」と疑問を抱き、取材を始めたのです。その結果、実はニクソン大統領の再選を目指す共和党系の人間が盗聴器を仕掛けようとしていたことが発覚。裁判の過程で、ホワイトハウスによる不正行為が次々と表沙汰になり、現職大統領が史上初めて辞任に追い込まれるという事件に発展したのです。記者としての感性のアンテナはさすがです。
ウォーターゲート事件に先立ち、もう1つ歴史的な大スクープがありました。泥沼化していたベトナム戦争の真相を記した機密書類「ペンタゴン・ペーパーズ」を、ニューヨーク・タイムズがスクープしたのです。
日本ではリクルート事件が有名
新聞はつねに国家や権力者を監視し、世の中を動かしてきました。日本でも、例えば「リクルート事件」報道が思い出されます。1988年6月18日、朝日新聞は、川崎市役所の助役が、リクルート社から未公開株を受け取っていたことを報道しました。当初、すでに神奈川県警が内偵捜査を行いましたが、時効のため事件にはならなかった出来事です。
一般に、警察が捜査を断念すれば、報道は行われません。産経新聞とNHKも内偵に気づいていましたが、取材を切り上げました。
しかし、朝日新聞横浜支局だけが独自の判断で取材し、地道な報道を続けました。時効であっても、企業のモラルが問われる問題だと捉えたのです。そして、朝日新聞は「リクルート社、川崎市助役へ一億円利益供与疑惑」という特ダネを打ちました。
この記事をきっかけに、他社も後追い。リクルート社が政財官界の多くの人々に未公開株をばらまいていたことが発覚しました。そこで、東京地検特捜部が捜査に乗り出し、日本の政財官を震撼させた「リクルート事件」へと発展したのです。
12人が起訴され、有罪が確定し、当時の竹下登首相が退陣に追い込まれました。政治家たちが口にした「秘書がやった」という言い訳は流行語にもなりましたね。地方記者の執念の取材が、巨悪を暴いたのです。まさにウォーターゲート事件の日本版といえるでしょう。
2006年7月20日、日本経済新聞朝刊に、「A級戦犯靖国合祀 昭和天皇が不快感 参拝中止『それが私の心だ』」という記事を掲載しました。昭和天皇は戦後、靖国神社を参拝していましたが、1975年を最後に、参拝を取りやめました。1978年に靖国神社がA級戦犯を合祀したことを知り、これに反発したからだと、記事は伝えています。
2006年当時、小泉純一郎首相が靖国神社を参拝し、中国や韓国との外交関係が冷え込んでいました。こうした中、日本経済新聞は、1978年当時の宮内庁長官のメモを入手。昭和天皇の発言をスクープしたのです。昭和天皇が不快感を示していたことが明らかになり、靖国神社問題の議論に一石を投じました。埋もれていた歴史の事実を明るみに出すことで、政治や社会が大きく動くこともあるのです。
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