ネットがあれば新聞不要と思う人に欠けた視点 「新聞離れ」が進んだアメリカはどうなったか

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ニュースは記者が取材し、記事を執筆して初めて生まれます。新聞社は多くの記者を抱え、直接情報源に取材して記事にします。この第一報がなければ、ネットに記事が転載されることもありません。

新聞の存在意義の1つは、この「取材」にあります。長い時間と手間のかかる取材をする記者がいるからこそ、記事が出来上がるのです。テレビ局では、NHKだけが多くの記者を抱えています。民放テレビにも報道部門がありますが、記者の数は本当に少ないのです。

もし本当に新聞がなくなったら、第一報がなくなり、ネットに新聞社から配信される記事もなくなってしまいます。ネットメディアには、転載するニュースがなくなってしまいます。

最近はネット専業のニュースメディアも登場しています。おやっと思うような新鮮な視点の記事も配信されます。その一方で、「テレビのワイドショーでのタレントの発言が炎上した」という類のニュースが激増しています。ネットニュースのメディアは取材コストをかけるだけの経営的な余裕がありません。

少数の記者がテレビ番組を見て“ニュース”に仕立てるという手法が広がりました。こうした“ニュース”がネットで配信されると、「これがニュースだ」と思ってしまう人も増えるでしょう。

新聞離れで先を行っているアメリカの場合

新聞がなくなって困るのは、メディアだけではありません。日本では新聞の購読者数が激減していますが、「新聞離れ」で先を行っているのはアメリカです。

アメリカでは全国紙より地方紙が主流ですが、その地方紙が経営難に陥り、続々廃刊になっています。原因は、広告費がネットに流れてしまったからだと言われています。

地方紙が廃刊になって、その地域では恐ろしいことが起こりました。選挙の投票率が激減したのです。地元の選挙を報道する新聞がなくなったため、立候補者などの情報が有権者に行き渡らなくなってしまったのです。これでは誰に投票していいのかわかりません。

地域のニュースが報じられないため、地元の政治への関心も失われてしまいます。テレビがカバーしないような小さな町の選挙では、そもそも選挙があること自体が伝わらない可能性もあります。新聞が廃刊になった市では、不正や汚職が横行しました。不正を監視し、伝える記者がいなくなり、不正が報道されることもなくなってしまったのです。

日本でも同じことが起こりかねません。新聞記者がいることで、人々は政治についての情報を得ることができ、権力者の不正に歯止めがかかっています。新聞は民主主義を支えるインフラなのです。

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