NHKに20年在籍した僕に見えた公共放送の役割

多様な価値を受け止める土壌を守る必要性

一方で、社会に生きる一人ひとりの考えにじっと耳を傾けると、そこには驚くほどの多様性が潜んでいます。

一人ひとりが異なる家族、環境で育ち、異なる時間を積み重ね、そこに在る。その無数の多様性を考えると、受け止める側も、それに呼応できる多様な感受性を持った人間たちでなければいけません。

ジャーナリズムの牙城

価値観が乱立する現代は、公共の利益、公共に資するもの、その定義がどんどん曖昧になっています。

資本関係に紐付くメディアは、主義主張を闘わせ、互いの価値を相殺し、メディアとしての信用を貶めています。

ジャーナリズムが衰弱し、権力の監視、社会正義への貢献、公平公正の確保といった大義名分が見失われつつあるなか、リベラルという価値観は、資本のルールの前では脆弱ですが、届かない声に陽を当てるシステム、個人の尊厳や表現の自由、知る権利や文化の多様性を守る手段として依然有効であり、その砦は必要です。

声の大きいものが優先されるシステムはモラル上、限界がある。多様な価値を受け止める土壌を醸成する装置が必要です。国民の付託という本来の立脚点を考えると、その牙城を守ることが、公共放送に期待される唯一無二の役割であるはずです。

SNS上にフェイクニュースや恣意的な情報が氾濫し、若者たちの多くはネットメディアに流れ、ジャーナリズムが逆に「届かない声」になりつつあるこの時代、流行に左右されない不偏不党の情報のスタンダードが、今ほど必要とされる時代はありません。

民間では考えられないその豊富な資金とリソースを、公共放送はどこに充てるべきか、もう一度国民を巻き込んで議論する必要があるように思います。(月刊『GALAC』2019年12月号掲載記事を転載)

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