不登校「親だけの解決」がとっても難しい理由 どれだけつらくても自分を責めないで

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須田和子さん(51歳)もかつて子どもの不登校に悩んだ1人。10年前に扉をたたいた。

「しつけが悪いからだ」「さぼらせてはダメだ」と、家族からは責める言葉ばかり。誰にも相談できない期間が長く続いた。とにかく学校に行かせなくてはとの思いから、子どもを家から締め出すように送り出したこともあった。「ちゃんとしなければといつも思って、親子でバトルしてはしんどい思いが続いていた」と振り返る。

「(登校拒否を克服する会で)『休ませていいんだよ』と言われて、子どもを丸ごと受け止められるようになりました。子どもはみんなお母さんが大好きだから、本当は悲しませたくないと思っていること。だから、お母さんが困ったり、イライラしたりする姿を見ると、学校へ行けない自分に罪悪感を感じてしまうことも知りました」

悩みを共有し、相談できる場ができたことで、子どもを信じて待てるようになった。子どもはやがて学校へ行くようになり、今はやりがいのある仕事を見つけ、忙しく働いているという。学童保育指導員でもある須田さんは自身の経験を生かし、職場でも不登校や行き渋りの親子のサポートを続けている。

この日、当事者として体験談を語ったのは、清水悠佑さん(34歳)。重度のアレルギーとアトピー性皮膚炎を抱え、無理が続いたことなどから、小学6年から中学時代にかけて不登校に。高校は通信制に進学。いつも信じて寄り添い続けてくれた母の存在が大きかったと話した。清水さんの母も同会に一時期、参加していた。

「学校復帰のハードル」は今も高い

清水さんはその後、全日制の大学に進み、小中高の教員免許を取得した。市の不登校支援員などを経て、独立。「心の居場所懇談」を開設した。個人の立場で不登校支援を続けてもうすぐ4年になる。

「市の不登校支援員の仕事はやりがいがある一方で、限界も感じたからです。不登校に至った経緯も現在の状況も一人ひとり違います。その子にあわせた対応をしていくためには独立しかありませんでした。初回の相談は長い人だと4時間、短い人でも3時間近くかかります。いろんな相談場所を回って来られる人が多いですが、『これだけ丁寧に聞いてもらえるとは思っていなかった』と言われるたびに、複雑な思いです」

親からの相談を受けた後、家庭訪問するのが清水さんのポリシー。子どもとの関係を深めながら、支援を続ける。部屋から出られず、誰とも会えない子どもにも対応してきた。半年で支援が終わることもあるが、2年関わった親子もいるという。

「不登校を克服する会」について清水さんに聞くと、「今は不登校の子どもが増えて、不登校に対するハードルはよくも悪くも下がりました。昔に比べると、親も仕方がないと不登校を受け止めやすい環境にはなっています。

しかし、学校へ復帰するというハードルは下がっていません。だからこそ、会が存在しているということが大きな支えになる。自分以外にも悩んでいる人がいると認識できるだけで救いになっているはず。親同士がつながる方法はほとんどなく、孤独になりやすいからです」と返ってきた。

須藤 みか ノンフィクションライター

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すどう みか / Mika Sudo

長く上海を拠点に活動したのち、2014年秋帰国。現在は、大阪、在日中国人のほか、子どもと読書、子どもの育ちにかかわる職業などをテーマに取材。著書に『上海ジャパニーズ』他。2009年、『エンブリオロジスト 受精卵を育む人たち』で第16回小学館ノンフィクション大賞受賞。「本好きキッズの本棚、見せて見せて!」などに連載中。

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