部下の指導が「パワハラ」認定される上司の特徴 「指導」と「パワハラ」の境界はかなり曖昧だ

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パワハラには「優位性」があることが必要です。優位性は上司から部下に対して有する場合が多いのですが、部下が上司に対して有意性を持てる(作り出せる)場合があります。それゆえ、部下から上司に対するパワハラ(いわゆる「逆パワハラ」)も成立します。

部下の持つ優位性の中には、事業所内外の人脈の活用(例えば、勤務期間が長い部下が社内での人脈を使い、勤務期間の短い上司の悪評を職場に流す)、企業施設の操作ノウハウ(例えば、社内のイントラネット管理を行っている部下が特定の上司に情報提供をしない)など多様です。

部下から上司に対するパワハラが成立することについては、裁判例でも、部下の中傷ビラ等によるうつ病自殺につき労災適用を認めた事件(国・渋谷労基署長事件・東京地判平成21年5月20日労経速2045号3頁)などが参考になります。

また、厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」(いわゆる「円卓会議報告」。平成24年1月30日)も、「パワーハラスメントという言葉は、上司から部下へのいじめ・嫌がらせを指して使われる場合が多い。しかし、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して行われるものもあり、こうした行為も職場のパワーハラスメントに含める必要がある」と述べています。

部下が結託して事実無根の「パワハラ」を訴えるなどしたら、それ自体が部下から上司に対するパワハラに該当する場合があります。

「逆パワハラ」への対策は?

部下から心当たりのないことでパワハラと訴えられた場合に、その反証は困難です。「していないことの証明」はできないからです。

しかし、本来、パワハラの立証は被害者が行うのが原則ですから(それゆえ、パワハラの立証では被害者が録音をとっていることが決め手になる場合が多いです)、事実無根であればパワハラが認定されることは本来ありません。

しかし、現実的には、一方の当事者の訴えを根拠に、客観的な証拠がなくても、パワハラが認定され処分を受けるケースがあるのも実情です。

対策としては、部下との関係で困っていることがあったら、こまめに同僚や上司に相談して、情報を共有しておくことが有用です。このようなこまめな相談は、上司から部下に対するパワハラの対策としても有効です。

部下から上司に対するパワハラも成立することが認識され、上司の立場であってもパワハラ被害を相談してもよいのだという意識が広がることも大切だと思われます。

竹花 元(たけはな・はじめ)弁護士
法律事務所アルシエンのパートナー。労働法関連の事案を企業側・個人側を問わず扱い、交渉・訴訟・労働審判・団体交渉の経験多数。人事労務や会社法務の経験を生かして、企業向けハラスメント防止セミナーやM&Aの法務デューデリジェンスも行う。東証一部上場企業・東証二部上場企業・医療法人・ベンチャー企業など、多くの業種・規模の企業で法律顧問を務める。労働法に関する書籍を20冊執筆。
事務所名:法律事務所アルシエン

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