アジアで最もクールな書店「誠品」を創った男 日本人が知らない呉清友氏の壮絶な創業秘話

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その店では毎週、毎日のように書籍に関連するイベントや講座、講演会を催した。当時の台湾では長く続いた戒厳令が解除され、民主化に向かって政治や社会に誰もが熱意を抱いていた。店はあっという間に台湾の文化拠点となった。

さらに打った手が24時間営業だった。誠品のような大型書店での24時間営業は世界で初めてだった。ただ、24時間営業にはリスクもある。人件費などのコストが売り上げに見合わない日も多い。夜には酔っ払いなどが入店することもある。だが、24時間営業を堅持する理由として、呉清友氏はこう語っていたという。

「読書は基本的人権であり、書店は誰もが平等な場所だ」

創業から15年間は赤字続きだった

私にとっても、いちばんインパクトがあったのは、誠品書店が24時間営業で本の座り読みを堂々と認めているところにある。夜、食事をした後、ふとこのままホテルに戻るのが惜しくなり、10時ごろに書店を訪れる。

台湾の誠品書店では、床に座って本を読むのが日常風景(筆者撮影)

そこではいすや床に座って本を読む大勢の人々がいる。本を1時間ほど読み、買ってホテルに戻る。「文化の中に自分がいる実感」を得られることは、台湾の旅で幸福を感じられる得難い旅のひとときであった。

そうして誠品書店は、台湾のみならず、中国、香港、韓国、日本、欧米からの観光客の姿をつねに見かける観光拠点にもなっていったのである。

その試みは、消費者から喝采を浴びたが、創業から15年間は赤字続きだった。不動産を次々と手放し、知人に金策を頼むことも珍しくなかった。その間、22.5億台湾ドル(現在の為替レートで約80億円)の増資を受けなければ経営を維持できなかったと呉清友氏は明らかにしている。

呉清友氏自身も、経営者としてオフィスに座っているのではなく、しばしば、誠品書店内に併設されたカフェのお気に入りの場所に座って仕事をしながら書店の社員を呼び出しては仕事の話をした。自身でも「書店は自分にとって(元気を注入する)ガソリンスタンドだ」と語っていたとされるほど、書店そのものを愛していたとされている。

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