終焉迎える「日本政治の小沢時代」

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終焉迎える「日本政治の小沢時代」

塩田潮

 3月の政局は、国会審議そっちのけで、自民、民主両党党首の進退が最大の焦点となりそうだ。中でも突然の疑惑追及で窮地に立たされた小沢代表の去就に注目が集まる。結局、捜査の進展具合によると見られるが、それとは別に、実は前々から小沢代表の賞味期限切れという問題があった。底流にあったのは小沢代表の「役割論」という議論である。

 民主党が「剛腕・独断・暗躍・病弱・ダーティー」のイメージの小沢氏の入党、代表就任を容認してきたのは、小沢氏に一つの役割を果たしてもらうためという暗黙の共通認識があったというのだ。役割とは、ごった煮、理屈偏重、虚弱体質、選挙下手といった結党以来の弱点を治療する特効薬という期待だった。小沢氏もそれを承知で入党し、党首に就いた。代表3年で参院選大勝も含めて、曲がりなりにも役割を果たしてきたといえる。

 だが、この役割はいずれも党内向けだ。政権獲得後の首相としての舵取り、政策や改革プランの担い手としては期待薄だった。小沢氏自身、内政や外交について語り、首相就任にも肯定的だったが、それ以上にエネルギーを注いできたのは、自民党打倒と民主党政権樹立、つまり政権交代それ自体だったように映る。政治の中身の転換よりも、政権交代可能な二大政党政治体制の実現者として歴史に名前を残したい一心だったのではないか。

 国民も見抜いていて、民主党への期待度でも、第一は政権交代実現、次が民主党の政策や人材への関心で、もともと小沢首相待望論は大きくなかった。それが「民主党政権ができても小沢首相にはならない」という観測の根強さの背景にあった。だとすれば、今回の事件とは別に、賞味期限切れが近づいていたのは間違いない。七転び八起きで不死鳥伝説も生まれていた小沢氏だが、「民主党の小沢時代」だけでなく、90年代以来、存在感を示し続けてきたという意味の「日本政治の小沢時代」も終焉を迎えつつあるように映る。
(写真:今井康一)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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