価値観を買う。エシカルの可能性と課題 モノの裏側にあるテーマを考える買い物とは?

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背景を含めてよいと思うモノを買う

roomsがフォーカスを当てるような、デザインや買う側に対するコミュニケーションの質を高めるということとは別に、そもそも、エシカルという言葉が“まゆつば”だ、という方もいるかと思います。その言葉自体がかなり幅の広い言葉であり、「社会にとってよい」というのもかなり主観的なものですから、私自身もその言葉自体の意味を問うことはあまり意味がない思っています。

むしろ、エシカルという言葉だけが独り歩きしないか、という危惧もあります。「正しいことをしている」という響きのよさだけで、ビジネスにおいてマーケティング目的に使われ、売るほうも買うほうも、言葉を聞くと思考停止に陥ってしまう可能性があるのです。すると、ただのはやり言葉として消化されて、せっかくの新しい動きも消えてしまうでしょう。

roomsの坂口さんも、その危険性については同意したうえで、最後はエシカルというキーワードを超えてブランドが確立しなくてはいけないと語っています。

「最終的にはブランドが表に出ていくことが大事です。エシカルが持つ意味は多様で、ブランドそれぞれがエシカルでひとくくりにされている中で、含まれている固有のテーマを体現していかなくてはならない。そう考えると、興味の入り口を作る意味で、戦略的にエシカルが使われることがあっても、最後はブランドが独り立ちをしていかないといけないと思います」

「エシカル」という言葉への注目が、まったく意味がないのかと言えば、そうではありません。エシカルという言葉が持っているたくさんの社会課題が伝われば、皆さんがモノやサービスの裏側を見ようと考えるようになる可能性があるからです。

たとえば、皆さんも、自分の着ている服が、危険な欠陥工事のビルで従業員が危険にさらされながら作っているものだと知ったら、気持ちよく着る気にはなれないのではないでしょうか? 着ている服が、明日の生活にも不安を抱えた従業員が作ったものだと知ったら、楽しくおしゃれができるでしょうか?

つまり、知ることで、自分の価値観を買い物に反映させることができれば、ひとつの投票行動のような形で、買い物を通して買い手としての意見を示す可能性があるかもしれません。このデザインがキレイだなとか、このデザインが好きになれない、というのと同じように、私たちは生き方や社会課題に対しても好き嫌い、よい悪いという価値観を持っています。しかし、まだそんな個々人の価値観を表した買い物の仕方が広がっているとは言えません。

最終的に、そうした商品やブランドが周りに増えてくれば、私たち買い手も、自分たちの価値観に合った商品を選択できるようになります。そのためにも、長い目でブランドと向き合い、育てていくことが、買い手にも求められているのではないでしょうか?

山崎 大祐 マザーハウス 副社長

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やまざき だいすけ / Daisuke Yamazaki

1980年東京生まれ。高校時代は物理学者を目指していたが、幼少期の記者への夢を捨てられず、1999年、慶応義塾大学総合政策学部に進学。大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持ち始める。2003年、大学卒業後、 ゴールドマン・サックス証券に入社。エコノミストとして、日本及びアジア経済の分析・調査・研究や各投資家への金融商品の提案を行う。2007年3月、同社を退社。株式会社マザーハウスの経営への参画を決意し、同年7月に副社長に就任。副社長として、マーケティング・生産の両サイドを管理。1年の半分は途上国を中心に海外を飛び回っている。

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