静岡県知事「リニア工事も空港駅も全部話そう」 大井川の水資源「失われれば戻ってこない」

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工事によって毎秒最大2トンの水が出ると予測されていますが、そんなところがほかにありますか。南アルプスのトンネルを掘って出た湧水は全量を大井川に戻さないといけない。4~5年かかりましたが、ようやく昨年秋にJR東海から「全量を戻す」とお約束いただきました。しかし今回の回答書で、全量を戻す技術的な体系ができていないことがわかりました。問題点が明確になったのです。

注:JR東海はトンネル工事に際し、覆工コンクリート、防水シート、薬液注入など何の対策も行わない場合に、河川流量が毎秒2トン程度減少すると予測しているが、実際には地質に応じた施工方法を実施することにより、減少量は予測よりも少なくできるとしている。当初JR東海は県知事や国土交通大臣意見を踏まえ実際の河川流量への影響を把握した上で、流量の減少分を戻すとしていたが、県の意向を踏まえて昨年10月に、原則としてトンネル湧水量の全量を戻すと表明した。県や利水者は「河川流量への影響を特定でき、その影響を回避できるのであればその方策を認める」としている。JR東海によれば、現在は「全量を戻す」という点について、詳細まで県や利水者に説明しておらず、現在は議論中の段階。
山梨、長野、静岡の3工区に分かれるトンネル工事のうち、山梨、長野の工事が先行しており、トンネルが山梨、長野とつながるまでの間は静岡県内の湧水が山梨・長野側に流出する可能性がある。JR東海は湧水量を低減させる対策を実施するととともに、本坑よりも小さい先進坑と呼ばれるトンネルをできるだけ早く両県とつなぎ、湧水が両県に流出する期間を短くできるよう検討中としている。

南アルプストンネルの静岡と山梨の工区の間に畑薙山断層があります。断層は水がたまりやすい場所なのです。現場に行くとわかりますが、畑薙山断層の途中から水が噴き出しています。トンネル工事で畑薙山断層を掘ったら大量の湧水が発生することになります。トンネルは静岡県側が高く、山梨県側が低いので、水は山梨県側に流れていきます。静岡県は膨大な水を失ってしまいます。

水は失われると戻ってこない

かつて東海道本線の丹那トンネルを掘っていたとき、丹那断層にぶち当たって芦ノ湖の3倍ともいわれるほど大量の湧水が出ました。当時の丹那盆地には水田があり、わさびも作っていた。でも今は水がなくなって牧草地です。酪農を行い丹那牛乳がここで作られています。水が失われると戻ってこない。そういうところを掘るのでしたら、もっと慎重でないといけない。

トンネルがつながったら全量戻すとJR東海は説明していますが、「水がめ」から水が出てしまったあとに残りの水を戻すというのはとんでもない話です。サッポロビールの工場が焼津にありますが、大井川の地下水を使っています。また、2008年の北海道洞爺湖サミットで「世界で最もおいしい日本酒」として乾杯用のお酒に採用された「磯自慢」も大井川の地下水を使っています。磯自慢酒造の社長からは「水脈が途切れると、うちはやっていけない」という趣旨の、悲鳴のような手紙をもらいました。

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