静岡県知事「リニア工事も空港駅も全部話そう」 大井川の水資源「失われれば戻ってこない」

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――東海道新幹線でメリットがあれば、県として水問題で譲れる部分はありますか。

皆無です。

――6月11日の定例会見で「静岡県に代償が必要」と発言しました。この代償とは何ですか。

水問題はプライスレス。お金に換算できません。静岡県のGDPは16兆円くらいありますから、6分の1で2.7兆円。これを仮に30年補償するとしたら81兆円。実際、そんな金額の補償は無理な話です。会見では、「他県ではリニア中間駅の建設にJR東海はいくら払うのか」という発言をしましたが、この地域はお金に変えられない水というものに依拠しているということをわかってほしかったというのが真意です。

――水量の問題が解決すれば、ほかに問題はありませんか。

生態系に影響しかねない水質の問題も重要です。また、南アルプスは年間4mm隆起しているので、ちょっとしたきっかけでトンネル工事で発生する土の置き場が崩れかねない。今は川筋に広場を作ってそこに置くことになっていますが、崩れたら土が川に流れ込むため大変なことになります。発生土置き場の管理は難しい問題なのです。

6月13日にJR東海の宇野護副社長といっしょに工事予定の現場を視察しました。現場に向かう道路は落石が多くでこぼこで、車がパンクしてしまいました。宇野さんに「どうして整備しないのですか」と聞いたら、「やる」とおっしゃっていただきました。ですから、もう整備が始まったはずです。作業員の中には県民の方もいますから、安全確保が必要です。

注:JR東海は土砂崩壊などが起きない安定した地盤の上に発生土を置き、工事完了後も責任を持って維持管理していくと説明している。
工事現場に向かう林道は静岡市が管理しており、2015年10月から市とJR東海の間で安全確保のための改良に向けて協議が続けられてきた。改良工事に必要な費用80億円をJR東海が負担することで7月1日に協定が結ばれた。

防げる問題は防がなければ

――名古屋では2027年のリニア開業を見据えた開発が行われており、東京や中間駅でも2027年開業に対する期待が高まる一方です。工事が遅れて2027年に開業できないと困る人も大勢います。

夏の大井川の流れ(写真:freeangle/PIXTA)

そうでしょうね。でも、新東名高速道路の秦野IC―御殿場IC間は想定以上の断層破砕帯が確認され、つい最近、開通時期が2020年度から2023年度に延びました。中部横断自動車道も工事が遅れています。軟弱土質にぶつかったり、重金属が見つかったり。自然が相手ですから。

今回の水問題もそういうことです。リニアは何の支障もなければ2027年に開業すべきです。しかし、水問題という大きな支障が起きているのです。

もし地震が予知できるとして、もうすぐ地震が起きるぞとなったら事前に対策を取るでしょう。それが危機管理というものです。今回、もし水が失われれば60万人もの人たちに影響がある。危機の可能性に気づいているのに何もしないわけにはいかない。事前に防げるのであれば、防がないといけないのです。

実は私1人が前のめりになって発言しているのではないかと気にしていたのですが、静岡県のあるテレビ局が8月にアンケート調査を行ったところ、「リニア新幹線の静岡県内の工事によって大井川の水が減る恐れがあることを知っていますか」という質問に対し、「知っている」が87%、「知らない」が13%でした。また、「大井川の水問題の対策をめぐりJR東海と対立する川勝知事の姿勢を支持しますか」という質問に対し、「支持する」が60%、「支持しない」が18%でした(「わからない」が22%)。さらに県とJRの合意が遅れることで、2027年のリニア開業が遅れてもいいかという質問に対し、「遅れてもいい」と答えた人は57%、「遅らせるべきではない」は24%でした(「わからない」が19%)。静岡県はこういう状況ですよ。静岡県民にとって、水はこれほど重要な問題なのです。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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