結婚当初は、晴之さんのほうが収入が高かった。しかし、ひとみさんが出産して、職場復帰してからは、子どもたちの面倒や食事作りは、すべて自営業である晴之さんの仕事となった。
稼ぎ時である土日も、子どもたちの習い事で遠方まで送り迎えをしなくてはならず、晴之さんは実質パート主婦のような状態へと変わっていった。エリートサラリーマンと遜色なかった高収入が激減した。
ひとみさんは「この家は私が建てたんだから、この家のルールは私が決める」と言い放った。マイホームの部屋の割り振りでも、ひとみさんが主導権を握った。
「あんたが日当たりのいい部屋なんて、ありえないでしょ! あんたは北向きの4畳半で十分」と晴之さんに冷たい視線を送った。
そう言われて、晴之さんはうなだれるしかなかった。結局、晴之さんに与えられたのは子ども部屋よりも小さい、日の当たらない監獄のような4畳半だった。
「僕の部屋だけは、なぜだか4畳半なんです。昔、夫婦で使っていたクイーンサイズのベッドがあるので、それを入れるとめちゃくちゃ狭いんですよ。だから、黙ってロフトを作りました。3畳半のロフトをね」
「気持ち悪い」と言われて、セックスレスにもなり、お互いの居室も別になった。
「モラハラされると慣れちゃうんですよ」
晴之さんは、日々家事と育児と仕事に追われる日々だった。しかし、ある日、食卓に着こうとすると、「片づけがまだじゃないか! 稼いでないお前は食事を食べるな。料理人は片付けして、初めて料理人なんだ」と言われた。
「えっ、俺は料理人じゃないけど」と反論したら、ハッと鼻で笑われた。
「それで洗い物を必死に済ませて食卓についたら、『おいしかったから全部食べた』と何も残っていなかったんです。もうこの日から、僕は夕食を食べてはダメということになりました。異常だと思われるかもしれませんが、モラハラされてると、それに慣れちゃうんですよ。諦めて受け入れちゃう。お腹は空くけど、慣れちゃいましたね」
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