日本の裁判「電子化」が圧倒的に後れを取る弊害 訴訟社会を喚起するリスクあるが不便も多い
そもそも日本とアメリカの法律の仕組みは大きく異なる。例えば、アメリカでは民事裁判でも「陪審員裁判」が行われる。陪審員の構成や裁判のプロセスや展開によって、まったく異なる判決が出ることがままある。
さらに、アメリカの裁判は州ごとに行われるために、同じような内容の事件でも州によって判決が異なるケースがよくある。つまり裁判の内容によってどこの州で裁判をすればいいのか、その情報をきちんと把握しておかないと大変なことになるわけだ。
加えてアメリカには、よく知られている「懲罰的損害賠償」がある。熱いコーヒーをこぼして火傷を負った顧客が、そのチェーン店を訴えて損害賠償を請求。億円単位の懲罰的判決が出たのはあまりにも有名だ。環境破壊の判決でも、莫大な懲罰的損害賠償の判決が下りることがある。
日本の場合は、そうした懲罰的損害賠償はまずないが、近年は割と多額の損害賠償請求が認められるケースもあるようになった。とはいえ、日本では金額の問題というよりも、裁判のスピードが遅すぎるために、時間とコストを必要としてしまう。
これが、企業にとってはやはり最大の「訴訟リスク」といっていいのかもしれない。
減少する医療関係の訴訟件数の背景
裁判に時間がかかり、さらに多額の損害賠償が認められる事件が最も多いジャンルといえば、これまでは医療現場といわれてきた。実際、病院などに入院する際などは、山のように承諾書や合意書を書かされる。
しかし、医療事故、医療訴訟ともに2000年代前半をピークに、その後は実は大きく減少している。
例えば、医療事故は警察庁の調べでピーク時の2004年には医療機関からの届け出、遺族などからの届け出、併せて255件に達し、わずか5年前の1999年の41件に比べて6倍にも増えている。ところが、その後は減少に転じており、2018年は届け出数65件、立件総数は37件に減少。検察が医療事故に対して立件することに消極的なのが背景にあるといわれる。
同様に、民事裁判として新規に提訴された「医事関係訴訟事件」の数も、ピークだった2004年の1110件から2013年以降はずっと800件台を維持。2018年には857件と横ばい状態だ。医療従事者が抱える訴訟リスクは、医療機関がインフォームドコンセントなどを熱心にやったおかげで、ある程度抑制できているといっていいのかもしれない。
一方、最近注目を集めているのが、本来原則的には責任を負わない「公務員」に対して、損害賠償を認める判例が続出していることだ。本来、公務員は国民や住民に対して損害を与えても、原則的に個人的には責任を負うことがなく、国家賠償法という法律によって国や公共団体が責任を負うことになっている(国家賠償法1条1項)。
ところが最近になって、公務員個人が法的に著しい怠慢や不注意による重過失を問われるケースが増えており、国や地方団体も公務員個人に対して、国民や住民に支払った損害賠償金を請求する傾向が出てきている。
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