日本の裁判「電子化」が圧倒的に後れを取る弊害 訴訟社会を喚起するリスクあるが不便も多い

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年間にこれだけの民事行政裁判が始まるわけだから、やはり一刻も早く裁判手続きの電子化を図るのが行政サービスとしても必要なことといっていいだろう。ちなみに、メディアなどの報道をまとめると、アジア近隣諸国と日本の民事裁判電子化の違いはかなり大きいことがわかる。

●シンガポール……電子化導入は1989年、原則として電子訴訟で、紙の場合は裁判所が電子化を行う。判決は基本的に公開する。法廷での自動録音やテレビ会議システムを使用したヒアリングが可能。
●韓国……電子化導入は2010年。紙での訴訟も可能だが電子訴訟の利用率は71.9%に達する。データ蓄積の容量を十分に確保している。判決は基本的に公開する。刑事事件を除くすべての裁判で電子化。刑事も2020年には導入を予定している。
●中国……2017年に北京や杭州の一部都市で、電子商取引に関する紛争に限って「インターネット法院」がスタート。杭州での審理時間の平均は28分。また今年の4月からはスマートフォンのアプリを使って、すべての手続きを行う「移動微法院」が13の都市で試験運用開始。紙での裁判を認める場合もある。判決は基本的に公開するのが近年の傾向。
●日本……電子化導入は検討中。電子と紙の選択が可能かどうかも検討中。インターネットによる判決の公開はごく一部で累計約6万1000件にしか満たない。

この中で驚きなのは、判決をインターネットで公開している数が累計で6万件程度しかないことだ。年間140万~150万件も裁判がありながら、そのほとんどが紙ベースで請求しないと閲覧できないわけだ。

企業が抱える訴訟リスク、アメリカと比べれば?

現在の日本のさまざまなビジネス場面で目につくのは、個人情報に関する承諾書などが増えたことだ。個人情報保護法が成立した影響だが、承諾書などの提出は法的にも義務づけられているからやむをえない。

それでも、世の中は訴訟であふれている。直近では、グーグルが傘下の動画投稿サイト「ユーチューブ」で子どもの個人情報を違法に収集していた問題で、調査費として181億円をFTC(米連邦取引委員会)に支払うことで和解。さらには広告事業で反トラスト法(日本の独占禁止法)違反でも調査が開始されている。万全を期しているはずのアメリカの巨大企業でも訴訟リスクにはつねにさらされる。

日本企業の場合、こうした訴訟リスクへの対応はこれまで遅れてきたと言わざるをえないだろう。リーガル(法律)とIT技術(テック)から作られた造語に「リーガルテック」という言葉があるが、 リーガルテック先進国アメリカのケースを見てみると、日本とは大きな違いがあることがわかる。

アメリカの場合、もともと「ディスカバリ制度」と呼ばれる仕組みがあり、個人、法人を問わず裁判を起こし、その訴えを裁判所が認めた段階で、原告と被告は訴訟に関した証拠を収集して開示し合うことになっている。証拠開示は、それを隠蔽するのはむろん、遅れた場合にも重い制裁が課せられるルールになっている。

そこで企業は、どんな訴えに対しても即座に対応できるように、ビジネスのデータを収集、保全して検索機能を充実させた。このテクノロジーがリーガルテックを発展させたと言ってもいい。日本企業も、グローバル化に伴ってこうしたリーガルテックを導入しつつあるとはいえ、残念ながら電子化そのものが日本企業の場合は遅れている。

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