アメリカがアベノミクスに味方する理由

「貨幣」から読み解く2014年の世界経済(上)

回復基調の米国経済

アメリカの実体経済は、いまのところ回復に向かっている。失業率こそ6.7%(2013年12月)と、リーマン・ショック前と比べれば高い水準にあるが、それでも2013年の1年間で1%以上減少した。今後、リーマン・ショック後に職を失ったまま職探しをあきらめ、労働力人口(失業率の分母の部分)に含まれていない人びとが再び労働市場に戻ることで、一時的に数値が上がることもあるかもしれない。そもそも労働市場はほかの市場に比べて景気回復の恩恵を受けるのが遅く、一時的な失業率の増加で「アメリカ経済は悪くなった」と報じるニュースがあったとしても、惑わされるべきではない。

重要なのは、政策面での変化である。昨年12月に、民主・共和両党が2014~15年度の政府の裁量的歳出を約1兆ドルに定めることで合意した。オバマ政権下のアメリカ経済が与野党の綱引きに長く翻弄されてきたことを思えば、この合意は画期的だ。

岩井克人(国際基督教大学客員教授) 1947年、東京都生まれ。69年、東京大学経済学部卒。72年、マサチューセッツ工科大学経済学部大学院博士号取得。イェール大学助教授、東京大学教授 などを経て、現職。著書に、『貨幣論』(筑摩書房)、『会社はこれからどうなるのか』(平凡社/第2回小林秀雄賞受賞)ほか多数。

近年、アメリカでは共和党とその支持層であるティーパーティー(「小さな政府」を掲げる市民運動)の極端な政治活動が目についた。だが、それは傍から見ると狂っているが、本人たちの頭の中では一貫した論理をもっている。ティーパーティーの発想は、基本的には新古典派経済学である。それは、市場メカニズムを全面的に信頼し、市場さえ自由にすれば、完全雇用は自動的に達成されると考える。GDPというパイの大きさは完全雇用水準で決まってしまうから、「官の取り分を増やせば民の取り分が減る」という単純な命題が出てくる。政府の存在自体が悪であるとし、意図的に「財政破綻」を引き起こし、政府のない理想郷を実現しようというシニカルな活動なのである。ただ、それが根本的に間違っているのは、彼らが信奉する市場自体が、さまざまな法や制度の機能を担保する国家の支えなしには働かないからだ。

このような考えに立つ共和党に対し、民主党はこれまで弱腰の構えを見せていた。「CHANGE」の掛け声とともに華々しく登場したオバマ大統領は、その実、あのレーガン元大統領を尊敬すると公言しており、共和党的思想の本質を理解していなかった。その結果、ブッシュ減税(2001年および03年の大型減税策)の延長を拒否することによって財政支出の削減を狙った共和党の強硬姿勢に対し、つねに翻弄され続け、「財政の崖」問題を招いてしまった。今回ようやく強気の姿勢に転じ、両党の合意が一時的にであれ成立した。

アメリカ経済の回復には、新しくFRBの議長に就任したジャネット・イエレンの存在も大きい。ケインズ派の経済学者ジェームズ・トービンの教え子であり、ケインズ経済学的な政策を選ぶことが予想される。

じつはアメリカ経済の回復は、前任のバーナンキの存在なしには語ることができない。1930年代の大恐慌や、日本の平成不況の研究で名を成した経済学者で、若いころは、貨幣供給量さえコントロールすればマクロ経済は安定化すると主張していたミルトン・フリードマンの説を批判する研究もしていた。だが、時代の風潮の変化とともに、次第にフリードマン的に金融政策を見るようになり、共和党員であったこともあり、フリードマン信奉者であったブッシュ大統領の目に留まる。そして、2006年、めでたくFRBの議長に就任した。

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