アメリカがアベノミクスに味方する理由

「貨幣」から読み解く2014年の世界経済(上)

フリードマンからケインズへ

しかし、それから数年も経たないうちに、あのリーマン・ショック(2008年)が起きてしまった。貨幣供給の変化などではまったく説明できない事実の重みの前で、彼はフリードマン的発想を捨て、ケインズ的な経済政策の有効性に再び目覚めたのである。今回の危機をもたらした不動産市場や株式市場のバブルは、前任のグリーンスパン議長による自由放任主義的な金融政策の結果と総括し、日本の平成不況の経験にも学び、非伝統的な金融緩和政策を実行した。また2012年には、インフレターゲット政策の一環として「失業率が6.5%になるまで金融緩和を続ける」という、物価だけでなく、実体経済も中央銀行の政策目標に入れるという過去に例を見ない方針を打ち出した。イデオロギーより経済の現実を直視し、いま何をすべきかを学者として、そして政策担当者として正しく判断したということである。

その点、イエレンはもともとトービン型ケインジアンであり、バーナンキの政策を継承する可能性が高い。政策の非連続性を懸念する必要がないという意味で、イエレンの就任はアメリカ経済に有利に働くだろう。

FRBの金融緩和縮小は、為替レートにも影響を与えている。昨年末から一段とドル高・円安が進み、12月27日には、5年2カ月ぶりに1ドル=105円台を記録した(ただ、今年1月下旬になって少し円高に振れ戻っている)。これは、日米経済史を画する「アメリカによる円安の是認」と解釈できる。

さかのぼると終戦後のアメリカは、日本を「共産主義に対する防波堤」と位置付けてソ連に対抗した。1ドル=360円という購買力平価よりも円を安く抑える政策を取り、日本の輸出産業を発展させた結果が「世界史の奇跡」といわれる高度経済成長である。

1980年代のバブル期には日本経済が世界を席巻し、アメリカの脅威となったことで、今度は日本の経済力を抑える方向に動いた。それが1985年のプラザ合意であり、以来、日本は実力以上の円高に苦しみ続けることになる。土地バブルの崩壊後もこのトレンドは変わらず、デフレに対する日銀の放任策もあって国内経済の空洞化が進み、それが平成不況を引き起こしたのだ。

しかし2010年代に入り、国際情勢の潮目が変わった。中国経済の台頭である。アメリカにとって「自由主義と民主制」という価値観を共有できない中国が影響力を増すことは是認しえない。中国の「防波堤」として、日本経済の復活を後押しするようになったのである。

もちろん、アメリカが意図的にドル高・円安を誘導しているのではない。しかし、アベノミクスがもし10年前、20年前に行なわれていたら、アメリカは円安の流れに対して黙っていなかっただろうとはいえる。アベノミクスの金融緩和に対して、アメリカからはほとんど反対意見が出なかったこと自体が、時代の変化を意味している。逆にいえば、国際経済政策の裏にはつねに国際関係上の思惑があることを忘れてはならない。

中国・国家資本主義体制の本質的な矛盾

いまの世界経済における最大のリスクは、中国経済である。先ほど「中国経済の台頭」と述べたが、それはあくまでも5年前に比べて、という話であり、現在の中国は足元に多くの火種を抱えている。

その代表例が、不動産バブルの崩壊危機だ。中国は過去10年間、平均10%超という驚異的な経済成長を見せてきた。それを支えてきたのは政府による公共投資である。いまではGDP成長率に占める公共投資の割合は40%を超えるが、過剰投資を生み、各地にゴーストタウンができた。現在、李克強首相が「リコノミクス」と称される公共事業の適正化政策を推し進めているが、バブルの元凶が地方政府であることもあり、実現は難しい。しかも現在、中国は世界最大の貿易国である。バブル崩壊のもたらす世界的な負のインパクトは甚大なもので、中国が世界経済全体のリスク要因となってしまった。

もともと中国は国家資本主義体制のもと、国有企業を中心とした資本主義化を行なってきた。それは、経済発展戦略としては必ずしも間違いではない。途上国の最大の資源は、農村の過剰人口である。その豊富で安い労働力をいかに早く機械制工場部門に吸収していくかが、その成長率を決めていくからである。

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