「アベノリンピック」で2020年まで景気拡大 竹中平蔵氏が語る東京五輪の経済効果(上)
従来試算の約7倍の経済効果
2020年のオリンピック・パラリンピックがもたらす経済効果の第1は、いわばハードの経済効果だ。公共工事の実施や旅客の増加といった、直接効果である。これに関しては、すでに東京都が試算を行なっている。産業連関表のオーソドックスな手法によるもので、結論として約3兆円の生産誘発効果が生まれ、うち4割が首都圏以外にも及ぶことが示されている。
しかし、7年で3兆円というのはきわめて控えめな数値だ。付加価値の誘発効果は1.4兆円で、1年当たりに直すとGDPの0.04%程度にすぎないことになる。これは、施設整備費を都が行なう競技場などの改修などに限定していること、直接オリンピック目的で訪問する旅行客の消費のみに限定して試算していることによる。しかし現実には、後述のように2020年に向けてさまざまな効果が重なることによって、投資や消費は一層拡大すると考えられる。
こうした問題意識に立って、筆者が所長を務める森記念財団・都市戦略研究所では、新しい試算を行なった。手法としては都と同様に産業連関表を用いたものではあるが、いくつかの点で前提が異なっている。たとえば施設整備費については都の試算に加え、「外環道(練馬―世田谷)事業費の1割が前倒しされる」、「地下鉄の一部延伸(豊洲―住吉)が行なわれる」、「成田・羽田アクセス鉄道の5割が実施される」などを織り込んでいる。また消費面では、ロンドンオリンピックの効果を参考に、従業者数が2020年までに21万人増加することの効果を見込んでいる。
さらには、アジアヘッドクォーター特区と国家戦略特区が相俟って、2017~2020年の4年間に年間50社、計200社の進出があると前提している。これらは、いずれも大胆な仮定ではあるが、後述のようにソフト・パワー効果、セーブ・フェイス効果を発揮すれば実現可能な前提と考えられる。
試算によると、生産誘発効果は約20兆円と都の試算の7倍に達する(一部ソフト・パワー効果なども含む)。また付加価値誘発効果も約10兆円で、年当たりGDP成長率を0.3%押し上げることが明らかになっている。これに関連して注目されるのは、雇用誘発効果が7年で約100万人となっている点だ。
こうした高い雇用効果が期待されることは、本来好ましいことだ。しかし現状の日本では、労働力とりわけ建設関係の労働力に大きな不足現象が見られる。せっかくの経済成長・雇用拡大のチャンスなのに、労働市場の改革と開放が進まないとその好機が失われるという懸念がある。後述するように、たんにオリンピックの経済効果を期待するという受け身の姿勢ではなく、このチャンスを活かすためにも国内の経済改革を進める、という覚悟が求められる。それがなければ、五輪効果もまさに絵に描いた餅に終わる。