「アベノリンピック」で2020年まで景気拡大 竹中平蔵氏が語る東京五輪の経済効果(上)
最高のコンテンツを活かすソフト・パワー効果
経済効果の第2は、東京と日本のソフト・パワーが高まることによって生じる効果だ。ソフト・パワーとは、まさに相手を惹きつける力にほかならない。考えてみれば、オリンピック・パラリンピックはいまの世界で最高の「コンテンツ」である。世界の人口の約7割が、テレビなどでオリンピックを目にするという。したがって主催国としてさまざまな企画を推し進めるなかで、開催前後の数年にわたって、日本と東京の世界に対する露出度を一気に高めることができる。前回のオリンピックを開催したロンドンは、見事にこうした力を発揮した。
先に紹介した森記念財団・都市戦略研究所では、6年前から「世界の都市総合ランキング」を発表している。これは、70の指標を組み合わせ、経済・文化・生活など幅広い分野の総合力を指数化し、ランキングにしたものだ。それによると、毎年第1位ニューヨーク、2位ロンドン、3位パリ、4位東京が不動のトップ4として位置付けられてきた。しかし2012年、トップを走り続けてきたニューヨークが2位に転落。入れ替わって1位になったのは、オリンピックを開催したロンドンだ。
詳細を見ると、このランキングを構成する70の指標のうち、とりわけ文化・交流の部門でロンドンの上昇が目立った。最大のポイントは、オリンピックの前後にロンドンで開かれた国際会議の数が大幅に増加したことだ。世界におけるロンドンの露出度が高まり、都市開発の新しい試みが知られるようになったことで、この際ロンドンで会議を開こう、というムードが各方面で高まったという。まさに、ロンドンのソフト・パワーが一気に高まったのだ。もちろんその背景として、誘致のためにロンドン市が力を尽くしたことも大きい。
また国際会議が増加したことと並行して、ロンドンにおけるホテルの質と量が大幅に改善した。じつはいまの東京では、最高級の五つ星クラスのホテルの数が減少しているという。決してホテルがなくなっているわけではないのに、世界における五つ星の基準がどんどん高くなっているのだ。その結果、東京のホテルの質が相対的に劣化している。しかし今回、オリンピック・パラリンピックの東京誘致が決まったことによって、東京の老舗ホテルなどの大型改装・拡張が発表され始めている。ホテル建設は、結果的に大きな経済誘発効果をもつし、また雇用効果も生まれる。
もう一点、ソフト・パワー効果として期待されるのが、クールジャパン戦略への貢献だろう。この点に関しては、すでに「クールジャパン推進会議」によってアクションプランが作られ、政府の成長戦略もこれを裏付けている。民主党政権時の政府の推計によると、近年における世界の文化産業の市場規模は約530兆円。これが20年には、900兆円超に拡大するという。しかし食を除く日本勢の売り上げは、現状では約2兆円にすぎない。日本に潜在力があることは、多くの関係者が認めるところだ。そこで経済産業省は、コンテンツ、ファッション、「食」などの文化産業を海外でも稼げる産業に育てたいと考えている。
しかし統計によると、この関連分野で輸出が輸入を上回る「黒字」部門はゲームだけで、映画、音楽、書籍などは軒並み輸入超過となっている。決め手がないなかで、オリンピックという契機が大きな可能性をもたらすことは確かだ。しかし、これをどのように実現するのか……、従来のような安易な政府依存ではない方策が求められねばならない。