元東京国税局国税調査官である松嶋洋さんがお書きになった『税務署の裏側』に、注目が集まっています。発売1カ月あまりで4刷を重ねる話題書です。
東京国税局を辞め、現在は税理士として多彩な活躍をする松嶋さんに、あらためて『税務署の裏側』をお書きになった理由や、税務署の不公平さの正体についてうかがいました。
厳正なお役所と知られる税務署の実態を知ってほしい
まず、この本をお書きになった動機から聞かせていただけますか?
私がいちばん嫌うことは不公平や既得権です。税務調査は非常に高潔な理念で行なわれるべきです。しかし納税者がゴネたり、クレーマーのような態度をとれば、税務署側は、クレーマーを相手にするのが面倒くさいので税金を取るのをやめよう、ということが実際に現場で行なわれています。
また税務署に23年間勤めると原則として税理士資格をもらえる制度(OB税理士制度)というのがありますが、これはまさに既得権です。この既得権を守るために、企業のニーズがあるとか、どうでもいいことが理由としてあげられています。
目には見えませんけど、税務署では不公平が日常茶飯事に行なわれているので、果たしてこのままでいいのかという思いがあって、本書を書きました。
東大の文学部卒で、国税調査官になった理由は何なのでしょうか?
当時は文学部だと非常に就職が厳しい時代だったのですが、大学を卒業して最初に日本政策金融公庫という政策金融機関に入りました。そこで債権回収をしていました。
私が入った当時は小泉政権の改革時で、政策金融機関は縮小の方向でいくと明確に打ち出されていました。何か手に職をつけなければ食べていけないことになるのでは、と危機感を持って、いろいろ調べたら、「税」は実は弁護士も会計士もそれほど得意ではない、と書いてあったのです。つまり、「税」は専門家の中でもニッチな分野と考えて、税を極めていこうと思い、税務署に入りました。
ただ、そのときすでに税理士という職業も見えていて、それならばまずは税務署という世界を一度知っておいたほうがいいなという思いもありました。また、テレビでマルサのドラマなどがあって、マルサの仕事にすごく興味をひかれたのです。
4年半で税務署をお辞めになったわけですが、税務署内の不公平はいつ頃から感じたのですか?
国税局に入ると4カ月の基礎研修があったのですが、それが終わって、実務に就いてだいたい1週間くらいで感じましたね(笑)。
基礎研修も税金の無駄遣いとしかいいようがない研修でしたし。
私が勤めていた頃、確定申告の相談会場で、一般の方が「書き方を教えてください」と言うと、「書けばいいの!」とか、「こう書いて!」とか、敬語も使わない横柄な対応をする職員がいました。
税務署は縦割りですから、所得税担当ではない職員は、確定申告の仕事をやりたくない輩(やから)もいます。民間では考えられませんが、当時はそういう対応をする職員はけっこういました。
私はそういうことにすごく違和感があったので、「こういう態度は変えたほうがいい」と言うと、上司に「偉くなるまでそういう気持ちを持ち続けなさい」と言われたんです。
なぜかというと、税務署は偉くなるまで、ものごとを変えられない組織なんです。しかも出世するためにはゴマすりが必要で、ゴマすりをしないと絶対出世できないといっても過言ではありません。
私はゴマすりなんてご免でしたので、いくらここでがんばっても意味がないと思ったのです。
東京国税局のOBとして、本を書くのに精神的プレッシャーはありませんでしたか?
正直言ってゼロではなかったです。もちろん多少はありました。
この本の内容を単なる風評に過ぎないという税理士の先生もいるんですね。たとえば本書でも書きましたが、1億円の税金が1000万円になったということは、私が実際にこの目で見たことなんです。
それでも、OB税理士が相手だからといって税務署はそんなことを絶対にやらないと言う税理士の先生もけっこういらっしゃいます。そういう先生からすれば、本書は事実無根で税務署を悪者にしている、と考えられるのでしょうが、私としては このような事実が一つでもあれば、公平な行政ではないと考えていますので、その認識を持って本書を書きました。
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