高橋一生「なぜか女性たちの心掴む」圧倒的魅力 「一生ついていきたい」と思わせる良質な芝居

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2017年には、大河「おんな城主直虎」の主人公(柴咲コウ)の幼なじみで、あえて憎まれ役を買って報われぬ愛を貫いた小野但馬守政次を好演。「カルテット」(TBS)では、元Vシネ俳優で無職・バツありというトリッキーな役だが、満島ひかりへの愛情を内に秘める家森諭高を飄々と演じた。たぶん「民王・直虎・カルテット」が、高橋の転機3大作品だ。

この3作品の役柄は三者三様で、冒頭の「酸いも甘いも噛み分けた知的な女性たちの心を奪った」と言い切りたいのだが、いかんせん共通項というか、根拠が弱い。高橋一生出演作をもう少し紐解いてみると、あるキーワードが浮上した。それは「可変」と「不器用」だ。

「変われる」ことは魅力のひとつ

職場あるいは社会の一員としては、そつがなくて器用。組織からすれば優秀な人材。高橋がドラマで演じる男は、わりとこの手の「できる男」が多い。ところが、人としてはやや難あり。言動や思想に問題があり、見ている側は思わず「クズ!」と叫ぶような役どころなのだ。それでも回を追ううちに、「実はこんな背景があったのか」「この人、悪い人ではないのかも」「逆にいい人じゃん」と評価が変わっていく。ひとつの作品の中で、その人物の評価がひっくりかえるような役を高橋は得意とする。

例えば、「名前をなくした女神」(2011年、フジテレビ)。ママ友地獄を描いた作品で、主演は杏。ママ友の尾野真千子の夫で、大手銀行勤務だが、支配と管理を愛情とはき違えたタイプ。妻を「のろくて鈍感」と外で罵るわ、妻の行動を監視するわの典型的なモラハラ夫だ。しかも、初回ではバスの中で女子高生に痴漢を働くという衝撃のクズっぷり。

ところが、劇中で子どもを巡るあまたのトラブルがあり、高橋は変わっていく。モラハラの裏には幼少期の哀しい経験があったこともわかる。愛情表現が不器用だということもわかる。濡れ衣を着せられても逃げず、淡々と過ごす強さもある。「人はこうして変われるものか」と希望をくれたのだ。

たいがいのドラマは人間の成長を描く。その成長に必要な苦境や試練が小さかろうが大きかろうが、人は必ず成長を遂げるというのが定番であり、カタルシスや達成感もある。高橋が演じる役は、単純に「成長する人」というよりも「変わることができる人」が多い。人はそうそう変わらない、と諦めていた人に「人生、捨てたもんじゃないな」と思わせてくれるのだ。

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