住友商事がメディア企業を武器にリテール展開《総合商社のポスト資源戦略》
今年10月、住友商事はネットスーパーに本格参入する。これまで、注文を受けた商品を店頭からピックアップし配達する仕組みを実験してきた。今度は大規模な注文に対応できる専用の加工・配送センターを設立して、勝負に臨む。
大澤善雄・住友商事常務メディア・ライフスタイル事業部門長は「最初の5年は赤字覚悟で300億円を突っ込む。10年かけて収益柱に育て上げる」と気を吐く。その自信を裏付けるのは、CATV事業のジュピターテレコム(J:COM)やテレビ通販のジュピターショップチャンネル(SC)での成功だ。
J:COMは約10年間赤字だった。地区ごとに加入者を集め、損益分岐点を越えればその地区は黒字化するが、エリア拡大先行で、多い年には赤字は200億円を超えた。ようやく一定規模に達した2003年に黒字へ転換、現在300億円近い純益を稼いでいる。3割弱を出資する住友商事には80億円程度の持ち分利益をもたらす孝行息子に育った。
SCも同様だ。スタジオ、物流センター、コールセンターなど初期の設備投資は重かったが、ドブ板営業で地道に放送局を開拓。現在では売上高は1000億円、純益約100億円をたたき出している。
本格進出するネットスーパーでも、J:COM同様、専用センターを中心にエリアを区切り、黒字化させながらエリアを広げる戦略を採る。ただし今回は、J:COMやSCといった有力なメディアを持つ強みが加わる。コールセンターなどのインフラの共用はもとより、SCと連携してキャンペーンも打てる。
メディアの強み生かし流通事業で他社に一線
三菱商事がイオンの筆頭株主になり、三井物産はセブン&アイ・ホールディングスの大株主。ファミリーマートを持つ伊藤忠商事はユニーとも親密で、ダイエーの筆頭株主の丸紅はイオンにも出資する。ライバルが大手小売りとの関係強化を進める中で、メディアを攻める住友商事の戦略は際立ってユニークだ。
住友商事も西友に出資していた時期がある。結局立て直しに難渋し、ウォルマートに西友株式を売却してしまった。もともと上流の食糧ビジネスには強くなく、川中に有力な食品卸もない。100%出資する中堅食品スーパーのサミットやドラッグストアのトモズなどの小売り企業を傘下に持つが、どれも規模は小さい。その代わり、圧倒的に強いメディアを持つ。住友商事はその現実を見極めて、差別化戦略を採っている。
大澤氏が描くネットスーパーの将来像は、単なる生鮮食品の宅配サービスではない。ドラッグストアのトモズと連携すれば、介護や福祉へのサービス展開も考えられる。
1月には『ELLEジャポン』などファッション誌を発行するアシェット婦人画報社に34%出資、ブランド品ネット販売への進出も明かした。1990年代後半のインターネット黎明期、商社はこぞってネットビジネスに挑戦し、ヤフーや楽天の前に敗れ去った。その楽天もネットスーパーを始めている。テレビや雑誌などメディア企業を自陣に取り込み、雪辱の機会をにらんでいる。
(週刊東洋経済)
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