三井物産がメキシコで水道事業を拡大《総合商社のポスト資源戦略》

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三井物産がメキシコで水道事業を拡大《総合商社のポスト資源戦略》

「総合商社の事業は幅広いが、インフラ関連は安定的、持続的な収益基盤の一つになりうる」。大前孝雄・三井物産常務執行役員プロジェクト本部長の確信は揺るがない。同社のインフラ関連で、収益規模が大きいのは電力だが、昨今力を入れている分野に「水」がある。

水分野で三井物産はタイとトルコの上水事業、中東での造水発電プラントのIWPP(独立発電事業者)を手掛けるが、この1年で急速に拡大している先がメキシコだ。

2008年7月、筆頭株主である東洋エンジニアリングとともにメキシコのアトラテック社(旧アーステック社)を買収した。ア社は工業廃水処理設備や下水処理設備の設計・建設・操業を得意とする水処理専門のエンジアリング会社。これまでもア社とはメキシコで、石油公社向けの廃水処理や、地方水道局に対する下水処理事業を共同で行ってきており、この買収で一気にメキシコでの基盤確立を狙っている。

電力事業の場合、カントリーリスクを考えて、ある程度地域を分散して投資することが多い。だが、世界的に自由化が進んでいる電力に比べ、参入地域が限られている水事業では、強い地域を深掘りする戦略がことのほか有効になってくる。

昨年12月には早速、メキシコ第2の都市圏、グアダラハラ市で20年間の下水処理サービス事業を獲得した。これでメキシコでの水処理事業は9案件に拡大。「メキシコでは一定のレベルに到達した」(若菜康一・プロジェクト開発第一部第二営業室室長)。将来的には、メキシコからアメリカ、中南米への事業展開をにらんでいる。

今、世界では水資源の不足が深刻化しようとしている。それだけに水分野をめぐる動きは活発だ。三菱商事は「和製水メジャー」を目標に、子会社ジャパン・ウォーターで国内実績を積み上げ、フィリピンなど海外にも進出している。中東の電力は造水能力も持つIWPP(造水発電)がメインとなるため、この地域でIWPPを手掛ける丸紅、住友商事も鼻息は荒い。

世界の水事業では、仏GDFスエズ、同ヴェオリア・ウォーター、英テムズウォーターの3社による寡占化が進む。追う日本勢との間には大きな距離が横たわっている。

つながり深いブラジル 各種社会インフラに参画

このほか、米国とブラジルで貨車リース、欧州では機関車リースを手掛けるなど、三井物産は交通分野のインフラ事業でも積極的だ。ブラジルではサンパウロで地下鉄の建設資金を一部負担し、州政府から30年間の運営・保守を受託するPPP(公民連携)案件にも出資している。

実は同社とブラジルは、歴史的に関係が深い。同国の国有石油会社のペトロブラスに対しても、海底油田開発のための掘削サービスや、浮体式石油・ガス生産貯蔵積み出し設備のリース、パイプラインでのガス輸送など、インフラサービスも手掛けてきた。ハイリスク・ハイリターンの資源権益への投資と違い、開発・生産に付随するこれらサービスは、市況変動の少ないミドルリスク・ミドルリターンだ。

ほかにも、州政府やペトロブラスが出資するガス配給7社に24%程度ずつ出資、七つの州でガスパイプラインを保有し、工場向けを主体にガスの販売にも進出している。社会インフラは地域社会と密接にかかわる事業だけに、地元政財界や住民との関係構築能力も大きなカギになる。三井物産が腰を据えて培ってきた真の実力が、今後問われるのだ。

(週刊東洋経済)

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