丸紅が狙う電力ビジネス《総合商社のポスト資源戦略》
昨年12月12日、オーストラリアの電力事業会社ゲイル社買収の契約が完了したとき、丸紅の舘上博・電力事業第二チーム長は、喜びと同時にホッと胸をなで下ろした。舘上氏にとって2005年1月のコスタリカの発電所以来となる、4年ぶりのIPP(独立発電事業者)案件であり、06年4月に発足した電力事業第二チームとしての初案件がようやく成立したからだ。
発電所を所有・運営するIPPで、丸紅は過去2年、台湾、シンガポール、UAE、カリブ地域などで次々と案件を獲得してきた。だが、米国とオーストラリアを担当する舘上氏のチームは成果を上げていなかった。米国を中心に約50件を検討、うち8件について社内の投資会議に諮った。稟議が通った5件で入札に臨んだが、ファンドや海外エネルギー企業にことごとく敗れ去った。
必勝を期したゲイル社の案件では、大阪ガスをパートナーに運営能力をアピール、丸紅よりも高値を提示していたファンドを押さえて独占交渉権を獲得した。だが、金融危機でファイナンス条件が悪化したことで、社内の投資基準をクリアするため、土壇場で再三の買収価格引き下げ交渉を余儀なくされた。
タフな交渉で受注を勝ち取った舘上氏は、「チームのモチベーション維持のためにも、何としても取りたかった」と振り返る。IPP入札は「打率2割なら御の字」ではあるが、まったく取れないと、スキル維持や業界での存在感でマイナスとなる。今回の買収成功で、オーストラリアを中心に約10案件が舞い込んでおり、「今度は時間を置かずに次の案件が決められる」(同氏)とほくそ笑む。
ゲイル社買収により、丸紅が海外で運営に参加する発電所の総発電容量は2万3413メガワット、出資に応じた持ち分発電容量では7474メガワットになった(未稼働分含む)。