あの「大宮駅東口」再開発に感じる意外な大胆さ これまでの再開発の概念を覆す可能性も

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だが、街の将来を考えると都心部が大規模マンションだけで埋め尽くされる状況はうれしいものではない。

住民税は増えるとしても新たな賑わいや、産業の創出にはつながらず、入居した人たちが同時期に一気に高齢化するなど、将来的な問題もはらんでいる。税金を投入する意義など問題はあるものの、行政としては民間のプロジェクトに口は挟みにくい。そこで、地域を限定して踏み込んだのが神戸市の条例というわけだ。

大宮の場合も、民間がそれぞれ独自に開発に臨めば、長期的に考えて街全体の将来にいいモノよりも、事業採算性の高いモノが優先されてしまう可能性がある。実際、西口の開発はすでにタワーマンション中心という計画だ。

「これまでにない街」に生まれ変われるか

住宅を作るのが悪いというわけではないが、それだけにしてしまうのはどうなのか。とくに東日本の玄関口であり、災害時に首都機能をバックアップするという大宮の位置づけを考えると、どう複合的で多様性のあるまちを作っていくかが問われる。UDCOという地域の開発全体を鳥瞰する組織を作った時点でさいたま市は部分最適ではなく、全体最適の長期展望のある街づくりを意図しているように思われるが、はてさて。

現状、具体的に大きく動き始めているのは、ターミナル街区の外側の公共施設の再編。東口エリアには老朽化した公共施設が多く、それらを玉突きのように順に見直し、合併、移転させつつ建て替えを図る連鎖型まちづくりが行われているのである。

すでに大宮区役所と大宮図書館が新設された新庁舎に移転。市民会館が2021年度に竣工予定の再開発ビルに移ることが決まっている。それ以外にも、氷川緑道西通線の街路拡幅工事、氷川参道一部区間の歩行者専用化なども動いており、建物建設以外の面でも動きは始まっている。

こうして周辺で開発が続き、グランドセントラルステーション構想が広まることで街の将来像のイメージを共有し、地域の開発気運につなげていくというが、姿が見え始めるのは早くて10年、15年後とか。建築物の建て替えのみならず、橋の架け替えや道路整備など関連作業が非常に多く、容易には進まないからだが、その分、変わるとなれば大きく変わるはずだ。

低層の、古びた建物が目立つ東口が高層ビルもあれば、路地や駅前広場の賑わいもあり、氷川参道の自然も享受できる、これまでにない街に生まれ変われば、開発の意味も変わってこよう。品川に比べ、災害に強く、歴史や自然に恵まれたアドバンテージ(品川周辺にもあるが、現在の開発では要素として挙げられてすらいない)もある。あとは大宮の人たちがどんな将来を選ぶかである。

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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