脱北者が証言する、北朝鮮の携帯ウラ事情 盗聴されて当然、それでもビジネスに必要

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故・金総書記が携帯事業をやめなかったのは「カネのため」。「利用者が携帯端末を購入する際にはドルや人民元など外貨で購入させたため、販売会社が一番の外貨稼ぎ企業になった」という。「現在、携帯端末は平壌で200米ドル前後から購入できるが、利益の7割は、北朝鮮・逓信省傘下の企業の懐に入る」(韓国の北朝鮮研究者)というのだから、現在の普及スピードを見ると、販売会社は笑いが止まらないのかもしれない。

実際の通話では、音声の品質については「問題ない」と多くが応える一方で、大きな不満として「ブツブツ切れやすい」「固定電話との通話ではとたんに品質が悪くなり、時には突然切断される」といった点を挙げている。さらに、「通話中に変な信号音や微妙な音質の変化があれば、国家安全保衛部が盗聴している」と考え、内容や通話を控えるという。脱北者の多くが「携帯電話の通話は100%、盗聴される」と考えているという。なかには、米国の盗聴用機器を当局が購入したという証言もあるほどだ。

基地局には停電に備えた蓄電池も用意

また、移動通信の基地局を実際に見たという脱北者は、固定電話網と比べ、移動通信基地局は北朝鮮国内で頻繁に起きる停電とは無関係と指摘する。「基地局には3日間の停電に絶えられる蓄電池が設置されている」のがその理由だ。同時に、平壌市内の高級幹部などが住む一部地域には「保安」のため、移動通信の機能が制限されている地区があるとも証言している。

これら証言は実際の経験談とも言えるが、脱北者の脱北時期である2010年前後から見ると、北朝鮮の携帯事情のなかには、現在すでに変化していることも少なくないことに注意すべきだ。日本で言う「ガラケー」しかないという証言があるが、記者が訪朝した2013年9月現在では、北朝鮮製とされるスマホを所有する人も増えていた。また、購入手続きも通常であれば「1カ月から数カ月」かかるとの指摘があるが、実際には外貨さえ持っていればその場で買えることも、現在では当たり前のようだ。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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