Netflixの難病に挑む番組に見たテレビの希望 「お涙頂戴」でなく世界から知見は集められる
有名人やタレントが誰1人として出てこず、主人公のサンダース医師と、患者と世界中の医師が出演者だ。アメリカのドキュメンタリーの作りではよくある手法である。
筆者は放送作家である。個人的な意見になるが、「なぜこんな番組を考えつかなかったのだろう」と反省した。ドキュメンタリーの概念や定義を勝手に決めつけていたと痛感した。
もし筆者が、日本でこのようなドキュメンタリー番組を作るとなったら、難病患者を日本でその道の権威と言われている数人の医師にまずは診てもらう。そして有名芸能人を出して「なんとかならないのでしょうか?」と、同情だけ集める感じにして、その病と闘っている患者さんの姿を描くだろう。言い方は悪いが「お涙ちょうだい番組」になってしまうだけだ。
だが、この『ダイアグノーシス -謎の症状を探る-』は単に問題提起するにとどまらず、具体的な問題解決を主眼に置いている。難病に対するアプローチがまるで違う。筆者は目からウロコが落ちた。
テレビ番組にもまだ未来があるかもしれない
この番組を通じて大きく3つのことを考えさせられた。
1つ目は、21世紀になっても、地球上には山のように難病があり、それを診断したり治療したりするのは非常に難しいということだ。医学は進化しているが、まだ万能ではない。証拠に、エボラ出血熱だって最近ようやく新薬の効果が認められたばかりである。
2つ目は1人の医師の力には限りがあり、万能ではないこと。
ネットは世界中につながり、知見を世界中から集められるということだ。サンダース医師の発信した情報に触れた世界中の医師やその病の経験者、家族が1人の難病患者に立ち向かえば、1人の医師では治療することができない難病でも、解決する可能性が出てくる。
今、ネット上には本当に山のように情報があふれている。不確かで信憑性のかけらもないような質の悪い情報はたくさんある。一方で、根拠に基づき、正確で信頼に足る質のよい情報もちゃんとある。
そうした山のような情報を整理すれば、人類にとって役に立つ知見は活用できるはずだ。この番組の主人公のサンダース医師も万能ではない。
今、この番組は配信が始まったばかりである。これを見た世界中の難病や原因不明の問題を抱えた患者は希望が見えたはずである。勝手な想像だが、助けを求めたメッセージがニューヨーク・タイムズやサンダース医師の元に殺到しているかもしれない。
もちろんネットフリックスの番組のすべてがこのようなものではないことはご存じのとおりだ。庶民的なドラマや番組もたくさんあるが、社会を変えていく可能性のある一歩を刻んでいるのは見逃せない。
これを日本のテレビ番組に置き換えてみれば、単に番組を制作するだけにとどまらず、地上波に限らずネットも駆使し、情報発信力を生かして世界中から知見を集めれば、社会の課題を解決するようなコンテンツの展開が可能なはずだ。
テーマも1人の難病に限らず、政治や経済、個人の生活などに関わるさまざまな問題解決を目指す番組がつくれるかもしれない。リソースを芸能人の離婚や不倫、どうでもいい議論に費やすのは本当にもったいないと思った。
そう考えてみると、まだまだテレビ番組には未来がある。「テレビは終わった」という人もいるが、そんなことはないだろう。
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