アジア太平洋の安全保障は、アメリカ中心のままでいいのか?

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新しいアジア太平洋の安全保障

 では、具体的にどうすればいいのでしょうか?

 まず、私は経済的な国際相互依存が高まっている現状を踏まえて、「ハブ・アンド・スポーク」型を、徐々に地域型に変える努力をすべきだと考えます。

 ただし、「最終的にはNATOのような仕組みが必要だ!」というよくある意見に対して私は否定的です。まず、アメリカが自分のイニシアティブを失うことを行いません。今のハブシステムで全体をコントロールできる仕組みを維持しようとするはずですし、また、日韓や日フィリピンといった二国間の信頼が安全保障条約を締結するほどは高くないと考えるからです。そして、なによりも中国を過度に刺激することになりかねません。中国の軍事増強は今でも激しいのに、これを加速してしまうリスクがあります。

 まずFTAで経済面の連携を

 地域型の安全保障は、まず国同士の信頼醸成が基盤となります。そのために使えるツールが、「自由貿易協定:FTA」ではないでしょうか(日本では経済連携協定:EPAという)。アジア諸国とのFTAを締結し、経済的な連携を構築することに、まずわが国は着手すべきです。

 たとえば、日本と韓国の間ではFTAが検討されてきましたが、2005年末に決裂して以来、交渉の動きも止まっています。これを至急進めるべきです。「日韓安全保障条約締結論」というアイディアもありますが、私は、そもそも「日米韓安全保障条約」が最終的な姿だと思いますし、なによりまずは日韓両国間の信頼を作ることからはじめるべきだと考えています。

 他にも、近年は、ARF(ASEAN地域フォーラム)という国家間の信頼を醸成する仕組みがあります。これは、ヨーロッパにおいてOSCE(欧州安全保障協力機構)と同様な機能を狙ったものです。ここで国防情報の交流を行うことにより、「囚人のジレンマ」から生じる軍備強化競争を防ぐことができるはずです。(私は、中国の軍備増強に伴い、東アジアで軍備拡大競争が始まることを懸念しています。)

 海外で駐在武官の方々との話で聞いた、「このARFの機能強化がアジアの安全保障の安定化につながる」との指摘が記憶に残っています。ヨーロッパにおけるOSCEは実績を上げており、その機能がアジアに求められていることは間違いないと考えます。

 そして、アメリカを含む多国間安全保障へ

 他国とのある程度の関係が深まった時に、アメリカを含む3国(例えば、日米韓)の安全保障体制を構築することができると考えます。

 当然、わが国は憲法の許す範囲での活動になりますが、それでも朝鮮半島有事への対応や石油海上輸送の確保などにおいて情報交換や役割分担を進めることができると考えます。なお、石油の海上輸送については、極端な話ですが、中国との連携も考えられます。たとえば、マラッカ海峡の海賊の問題などは共通の課題ではないでしょうか。

 このような安全保障の確立は急務です。なぜなら私は、中国の軍備拡大に対して、3カ国が共同して対応する必要性が必ず近い将来に生じてくると見ているからです。

 このまま中国が経済的に成長し、その果実を軍備にまわすのであれば、中国の軍備はまだまだ拡大しつづけます。わが国もアメリカも政府の財政を見ると、軍備拡大を行う余裕はありません。ある段階で中国の軍備拡大に歯止めをかけることが求められるはずです。

 政治家で安全保障に関心が高い方はあまりいないように感じますが、国防は国家の柱です。平和なアジアを構築するためにも、日本の政治家が、安全保障に関心を持つアメリカ、韓国、フィリピン、中国などの政治家と連携していくことが不可欠です。そうした国境をまたいだ連携こそが、日本の安全保障を盤石なものとするのです。

<参考文献>
・『アジア太平洋の多国間安全保障 (単行本)』
森本 敏 (編集), 山本 吉宣 (著), 倉田 秀也 (著), 菊池 努 (著), 山田 哲也 (著), 中山 俊宏 (著), 神保 謙 (著), 星野 俊也
・金子 将史「より安定した安全保障環境の構築のために、防衛庁・自衛隊に期待すること-今求められる「防衛協力ネットワーク」構築への努力−」

藤末健三(ふじすえ・けんぞう)
早稲田大学環境総合研究センター客員教授。清華大学(北京)客員教授。参議院議員。1964年生まれ。86年東京工業大学を卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省、環境基本法案の検討や産業競争力会議の事務局を担当する。94年にはマサチューセッツ工科大、ハーバード大から修士号取得。99年に霞ヶ関を飛び出し、東京大学講師に。東京大学助教授を経て現職。学術博士。プロボクサーライセンスをもつ2女1男の父。著書に『挑戦!20代起業の必勝ルール 』(河出書房新社)など。個人ブログ にて毎日情報発信中

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