「臭くない」部屋を求めて東京に来た母子の叫び 実家のある街から何百キロも逃げて

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「大黒摩季の“あなただけ見つめてる”っていう歌、知ってます?」

「知ってる、世代だもん」

“あなただけ見つめてる”は、付き合った恋人に言われるがままにメイクをやめ、髪型や服を彼好みに変え、彼が嫌う友人とは絶交する。支配的な恋人を何一つ疑うことなく妄信する女性を描いた歌だ。1994年に発売され、当時爆発的な人気を誇ったアニメのエンディングテーマにも起用された。

「本当にバカだなって思うんだけど、あの歌を初めて聞いたとき、私のための歌だって思ったんです。初めて付き合った人だから、おかしいな、これって普通のことなのかなって思いつつ、元夫のわがままを全部受け入れていました。そんなときにあの歌に出会って、“そうか、私みたいな人は、こんな人気アニメのエンディングテーマになるほど一般的なんだ、普通のことだったんだ”って、安心したんです」

「え、だけどあの歌は、そういう女の子に活を入れる歌なんだと思ってた。だって曲の最後は……」

「“行けっっ! 夢見る夢無し女!!”。私は、自分が紛れもない夢なし女だって自覚があったんです。だから、そんな自分に向けられた応援歌だと思っちゃった。それにあの歌のまんま、彼のことをおかしいって言ってくれる友達とは次々に縁を切ったから、気づいたときには、まわりに正しいことを言ってくれる人は、一人もいなくなってました」

小さく苦笑いしながら、Yは話を続ける。

10年後についにやってきた限界

Yはその恋人と結婚し、息子を産んだ。けれども子どもを産むまでも、そして産んでからも、夫は一向に定職に就かず、好きなようにYの稼いだお金を使い、好きなときに浮気をした。それでも実の母親から、女は、妻は、母は、ただひたすら家族に献身するものだと無意識に刷り込まれていたYは、絶えず湧き上がる違和感にかたくなにふたをしながら、夫に振り回される結婚生活を、約10年続けた。

ついに限界が来たと思ったのは、夫が、機嫌に任せて、息子に手を上げるようになったからだ。

「このまま一緒にいたら、息子を守れないと思った。それで、別れようって決めたんです」

別れても、当初は実家に帰るつもりなど毛頭なかった。ところが長年の心労がたたってか、離婚直後からYはしばらく病に伏してしまった。それまでどおり仕事に行くことも、また息子の世話を焼くこともままならなくなり、やむをえず実家に頼らざるをえなかった。

次ページ再び始まった、両親との暮らしで恐れていたことが…
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