元・横綱武蔵丸が「部屋のご飯」にこだわる理由

勝負の世界に挑む10代20代弟子たちへの視線

武蔵川部屋の「家族の風景」とは?写真左より武蔵川親方と妻の雅美さん(撮影:尾形文繁)
『家族無計画』『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さん。この連載で綴るのは、紫原さんが実際に見てきたさまざまな家族の風景と、その記憶の中にある食べ物について。
今回は番外編。第67代横綱・武蔵丸(現・武蔵川親方)が率いる武蔵川部屋における「家族の風景」について取り上げます。

相撲部屋という「大家族」の生活

江戸川区は閑静な住宅街の一角にその建物はあった。一見すると大きめの民家に見えなくもないが、玄関扉の上部に掲げられた一枚板には、しっかりとこう刻まれている。

武蔵川部屋の外観(撮影:尾形文繁)

「武蔵川部屋」

第67代横綱・武蔵丸(現・武蔵川親方)が再興した相撲部屋、武蔵川部屋。家族の風景を追うこの連載で、相撲部屋という大家族の生活を見てみたいと思い、縁あって見学することになったのだ。

稽古場へと続く引き戸を開けると、まわし姿の大きな力士たち、実に20人余りが、それぞれの稽古に励んでいた。数十キロはあろうかという巨大な石を抱え、何十回、何百回とスクワットに励む者。稽古場のてっぽう柱に、黙々と張り手を続ける者。

中央の土俵上では、いわゆるぶつかり稽古が行われている。受け手となる兄弟子は土俵の中ほどに立つ。そこに土俵際から、弟弟子が勢いよくぶつかっていく。バチンっという大きな音を立てて、2人の力士が組み合う。

それぞれの稽古に励む力士たち(撮影:尾形文繁)

激しく押し合うこともあれば、膠着状態となることもある。張り詰めた緊張感の中で、はぁ、はぁ、と2人の力士の荒い息遣いだけが響く。そうして、弟弟子がわずかに気を緩めた瞬間、大きくて重い体が、土俵上にごろっと転がる。

「ほら、すぐに起きろ、稽古が終わるぞ」

部屋付きの雷(いかずち)親方から低い声で檄が飛ぶと、倒された力士はさながら自分を鼓舞するかのような太い声を発しながら起き上がり、ひとしきり土俵の周囲をすり足で歩く。そうして再び、強い兄弟子に、精一杯ぶつかっていく。

次ページ稽古の様子を部屋の隅で見守る武蔵川親方
ライフの人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 晩婚さんいらっしゃい!
  • 近代日本を創造したリアリスト 大久保利通の正体
  • 夢を諦めない「脱会社員の選択」
  • 忘れえぬ「食い物の恨み」の話
トレンドライブラリーAD
人気の動画
東芝、会社「3分割」に残る懸念
東芝、会社「3分割」に残る懸念
富裕層、世代でまったく異なる「お金の使い方」
富裕層、世代でまったく異なる「お金の使い方」
ANAとJAL、国内線で競り合う復活レースの熾烈
ANAとJAL、国内線で競り合う復活レースの熾烈
EVの切り札?夢の「全固体電池」は何がスゴいのか
EVの切り札?夢の「全固体電池」は何がスゴいのか
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
メタバース革命が始まる<br>全解明 暗号資産&NFT

不正流出事件から4年。復活不可能に見えたビットコイン相場は米国主導で活況を取り戻しました。暗号資産を使ったNFTの購入、そしてNFT取引が広がるメタバースにもビジネスの機会が広がっています。日本は暗号資産とどう向き合うのでしょうか。

東洋経済education×ICT