大相撲「同部屋対戦」を行わない深すぎる理由 「稀勢の里」と「高安」兄弟弟子である事の意味
「こんなにうれしいことはない」。5月31日に行われた高安の大関昇進伝達式。満面の笑みを浮かべて、こう言ったのは、高安の所属する田子ノ浦部屋の兄弟子である横綱稀勢の里だった。高安本人は、喜色満面というよりも、喜びと安心と緊張が入り混じったような顔をしている。
ちょうど4カ月前、自らの横綱昇進伝達式の時は、稀勢の里自身も同じような表情を見せていた。
高安の大関昇進を喜ぶ稀勢の里に見たもの
しかし、この日の横綱は違った。まるで屈託のない、純粋に喜びにあふれた笑み。「大関の上にはもう一つあるんで、また一緒に伸ばしていければいい」――。弟弟子である高安への期待を込めて語る姿に、相撲界独特の「部屋の絆」を改めて感じた。
現在、大相撲の力士は約700人。そのすべてが、45ある相撲部屋のいずれかに属している。相撲部屋は家族だ。師匠である親方=父親と、その妻のおかみさん=母親の元、たくさんの力士=子供たちが一つ屋根の下に寝泊まりし、同じ釜の飯を食う。
そんな相撲部屋の大きな柱となるのが、毎日の稽古だ。力士たちが目指すのは、強くなって番付を1枚でも上げること。稽古は、そのための貴重な鍛錬の場だ。力士たちは全力を尽くしてぶつかり合い、力をつける。仲間が先に出世をすれば、うれしさとともに悔しさも胸に、「なにくそ」と稽古に励む。互いに刺激し合い、稽古に励んでともに上を目指すのが、相撲部屋という制度なのだ。
なかでも大切なのが、番付が上の者が下の者に胸を出し、鍛えることだ。同じくらいの力の者同士が取るだけでは、壁を突き破ることは難しい。自分より力が上の者にぶつかり、跳ね返されてはまた向かっていく――そんな日々の積み重ねが、番付を上げる原動力となり、部屋全体に活気を生む。かつて、横綱千代の富士が九重部屋の後輩である保志(後の横綱北勝海)を鍛え、九重黄金時代を築いたのはよく知られた話だ。
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