「食べることは、とても大事だ」という言葉の背後にあるのは、「いつもお腹を空かせていたし、貧しかった」という自身の経験だ。だから深みを感じさせるのだが、「理解しろ」と読者に共感を強いるようなことはしない。事実を淡々とつづっているからこそ、そこに説得力が生まれるのだ。

「食べることは、とても大事だ」と小林さんは言う(撮影:今井康一)
ちなみに後半で話を人生にまで広げているのは、この項の前の部分で自らの食べものに関する思い出をつづっているからだ。戦時中の話なのでいい思い出ばかりでもなかろうが、それでも「過去の自分の人生を肯定する」ことの重要性を強調している点こそが重要だ。
当時と現代とではいろいろなことが違っているが、自己肯定が困難な時代でもあるからこそ、この言葉は多くの人の心に響くのではないだろうか。
失敗したら、またやってみればいい
第2章「老後のモットー」で注目すべきは、「老いる」ことについての考え方だ。ここで著者は、「もう年だからやらない」「もう年だからダメ」「もう年だから恥ずかしい」というような“よくある言葉”の問題点を指摘している。
せっかくワクワクするものがあるのに、そんなふうに思った瞬間、すべては消え失せてしまうというのだ。
いや本当に、「年だから」は年寄りがいちばんよく使う言葉なんだ。(中略)結局、失敗が怖いからなんじゃないかと思う。
なんとなくやりたいな、と思っても、うまくいかなかったときが恥ずかしい。自分が情けない。みっともない。惨めな気持ちになるのが嫌だ。
だから、最初からやらない。
でも、これは当たり前だけど、やることなすこと全部、成功するはずがない。それは若いころも、年を取ってからも同じ。一度や二度は必ず失敗する。
料理だって、いつもうまくいくとは限らない。時には失敗する。いや、しょっちゅう失敗すると言ってもいい。
人生も同じ。絶対に成功する、なんてことはありえないんだ。
(69ページより)
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