「大規模無低」を結局温存する福祉行政の大罪 貧困ビジネスの排除は遠のくばかりだ
省令案では、2020年4月から3年間、冒頭の男性が利用していたような多人数部屋や簡易個室が存続される見通し。検討会で厚労省の保護課長は、「多人数部屋、簡易個室についてはなくそうと思えば明日にもなくせる」と明言したが、「現に住まわれている方のことを考えて」3年間の経過措置を設けたという。
こうした大規模施設への収容が今も対策の中心に位置付けられているのは、福祉分野の中でも極めて例外的だ。現在の福祉行政では、「地域包括ケアシステム」が政策の柱。介護や障害分野ではすでに大規模施設への収容から、地域の貸家やアパートを利用した小規模な施設での専門家による適切な支援へと大きく転換している。
ところが検討会は、大規模無低の”温存”を決めた。逆に、今回検討会で議論されてきた小規模巡回型(サテライト型住居)の施行日は、省令案では2022年4月と示されている。
小規模巡回型は、入所定員数5人前後の小規模住居施設の運営と、社会福祉士など専門家による巡回訪問を通した支援提供の仕組みが一例だ。これまで4人以下の小規模施設については規定がなかったが、厚労省は今回の省令案において、これを無低の新しい事業形態として位置づける予定だった。しかし、2020年4月に予定されていた施行日は、2年間先送りされる見通しとなった。
都の福祉部長が厚労省を公然と批判
小規模巡回型の導入が先送りとなったのは、自治体側の猛反発があったからだ。3月には東京都や千葉県、さいたま市など8都県市が、厚労省の保護課長宛に導入反対の要望書を提出している。
「支援の質の低下や事故リスクの高まりにつながり、利用者等に大きな不安を与える」「(小規模巡回型の導入は)貧困ビジネス拡大の恐れがある規制緩和にほかならない」。要望書には強い調子で反対の言葉が並んだ。5月末には都が福祉保健局長名で厚労省社会・援護局長宛に「緊急提案」を提出した。
ついには検討会でも、東京都福祉保健局の坂本尚史生活福祉部長が「(導入見送りを)再三再四申し上げ、今、導入反対だと明らかに申し上げているにもかかわらず、まだ(厚労省が導入案を)出すことについては正直理解に苦しむ」と、厚労省の姿勢を公然と批判するまでに至っている。
結局、無低の施設数および利用者数の約3分の2を占める東京都など8都県市に押し込まれ、2年先送りとの結論になった。
ただこの間、劣悪な居住環境や不十分な生活支援が批判されてきたのは、どれも収容型の大規模無低ばかりだ。「他人同士の中高年男性だから、多人数部屋や簡易個室だとトラブルが頻繁に起きる」。大規模無低の利用経験者はそう話す。昨年下半期の間に、あるNPO法人の2軒の大規模無低で死亡事故が起きているが、どちらもこうした部屋だった。
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